「不時着」と報じるメディアの愚
12月13日夜、沖縄県名護市の沿岸でオスプレイが墜落しました。これについて、12月14日付の産経ニュースは「オスプレイ不時着」と報じており、NHKニュースも「米軍オスプレイ不時着」としています。しかし、これは「不時着」ではなく、明らかに「墜落」です。実際、12月14日付の琉球新報は「オスプレイ墜落」と報じています。
なぜ日本本土のメディアは「墜落」ではなく「不時着」と報じているのでしょうか。12月14日付のBuzzFeed Japanによると、アメリカ側が「不時着水」という表現を使っていたため、防衛省の報道担当者も報道資料に「不時着」という言葉を使い、メディアも「不時着」と報じたということのようです。
しかし、もし同じような事故が東京近郊で起こっていれば、本土メディアは「不時着」ではなく「墜落」と報じたでしょう。防衛省がアメリカ側の説明を疑問もなく受け入れ、本土メディアもそれに疑問を感じずに報じるのは、沖縄で起こっていることを我が事として受け止めていないからです。そこには沖縄に対する蔑視感情が見え隠れしています。
これは今回の事故に限った話ではありません。今年4月に沖縄で米軍属による女性強姦殺人事件が起こった時も、日本国民の多くはまるで他人事のように受け止めていました。そして、現在ではもはやあの事件は風化してしまっています。
日本国民がこのような対応を続ければ、沖縄はますます日本から離れていき、いずれ分離・独立してしまうでしょう。イギリスのEU離脱やトランプ大統領の誕生という現在の国際情勢を見れば、それは決してあり得ないことではありません。
ここでは、弊誌7月号に掲載した、作家の佐藤優氏と哲学者の山崎行太郎氏の対談を紹介したいと思います。
沖縄は今でも戦時下の無法地帯だ
山崎 今回の対談は沖縄の問題から始めたいと思います。先日、沖縄で女性強姦殺人事件が起こりました。沖縄ではこの事件に対して激しい怒りの声が上がっています。
佐藤 夜8時頃にウォーキングしていた20才の女性を強姦目的で襲って、ナイフで刺して殺したということです。しかも最初から遺体を運ぶスーツケースを用意していたというんだから、計画性がある。とんでもない話です。
山崎 沖縄には人権が全くないということですよね。
佐藤 そうです。つまり、沖縄はまだ戦時下だということですよ。米軍の軍人や軍属が戦時下の無法地帯だと思っているから、ああいうことができるんです。だから今、沖縄では戦時中の暴行事件も思い出されていて、怒りが沸騰しています。
山崎 今回の事件の容疑者は、元海兵隊員で嘉手納基地軍属のシンザト・ケネフ・フランクリンという男です。僕は最初に「シンザト容疑者」と聞いた時、「シンザト」というのは沖縄に多い名前ですけど、どこの人かわかりませんでした。
佐藤 沖縄の新聞も当初は「シンザト容疑者」と報道していたけども、途中から全て「ケネフ容疑者」に切り替えました。彼は沖縄の女性と結婚して「シンザト」を名乗っていましたが、シンザトという名前が独り歩きすると、沖縄人の犯罪か、あるいは沖縄系アメリカ人の犯罪ではないかという誤解を招くことになりますから。
それと、彼の奥さんと子供は今回の事件と関係ありませんからね。それで沖縄の新聞は「ケネフ」という彼自身の名前で報道することにしたわけです。
山崎 しかし、これほど重大な事件が起こったにもかかわらず、安倍政権の対応は冷淡ですね。翁長雄志沖縄県知事は官邸で安倍総理と会談し、伊勢志摩サミットのために来日するオバマ大統領と直接話をする機会を与えてほしいと要請しました。だけど、菅官房長官は外交や防衛は政府がやるものだとして、それを拒否した。
佐藤 あそこに端的に差別が現れています。なぜ「オバマ大統領との会談を実現するために全力を挙げます」と、沖縄に寄り添おうとしないのか。オバマが広島に行く時には、広島県知事や広島市長とは会わせるわけでしょう。71年前の原爆投下について異議申し立てをし得る広島県知事や広島市長は会わせるけど、現在進行中の沖縄人殺害事件について異議申し立てをし得る沖縄県知事は門前払いする。これは理屈が破綻していますよ。
安倍政権がこんな対応をするのは、沖縄人を同胞と思っていないからです。あるいは同胞でも二級市民と見なしている。例えば、東京の六本木で夜8時頃に日本人の女性がウォーキングしていたら、在日米軍の機関誌を発行している星条旗新聞社からアメリカ人軍属が出てきて、いきなり強姦しようとした。それで言うことを聞かないから刺し殺して、トランクに入れて明治公園に捨てたと。もしそんなことが起きればどうなりますか。
山崎 政府は強く批判するでしょうし、大暴動が起こるでしょうね。それこそ再び日比谷焼き討ち事件のようなことになるかもしれない。
佐藤さんのおっしゃるように、安倍政権の対応はダブルスタンダードです。それは安倍政権の拉致問題への対応と比べるとわかりやすいと思います。安倍政権は北朝鮮の拉致問題に厳しく対応し、経済制裁までやっていますよね。日本のマスコミも北朝鮮を批判しているし、多くの日本人が北朝鮮に嫌悪感を抱いていると思います。
しかし、それでは北朝鮮に拉致された少女と、沖縄で殺された20歳の女性と、一体何が違うのか。北朝鮮の拉致問題に厳しく対応するなら、沖縄の強姦殺人事件にも厳しく対応しなければ辻褄が合いません。
佐藤 沖縄が怒っているのは、「日本人は果たして、日本人の命と沖縄人の命を同等に考えているのか」ということに対する怒りですよ。殺しというのは、その人間の可能性を全て奪うものです。それなのに、日本人は今回の事件について、明らかに日本人が殺された場合と同じようには怒ってない。沖縄はそれに怒っているんです。
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