トランプは人種主義へ舵を切るか

「アメリカ」というアイデンティティ

 トランプは当選直後より発言が穏当になっているため、実際にどのような政権運営を行うかは定かではありません。日本ではもっぱらトランプの対外政策に注目が集まっており、国際関係論の専門家などが日本への影響を盛んに論じています。トランプの持つ孤立主義的な傾向は注目に値しますが、注視すべきは、トランプの持つ強烈な「民族意識」です。

 アメリカはこれまで移民の国として、多様な民族を受け入れてきました。そこでは、出自や文化的背景に関係なく、全ての国民が平等だという建前が維持されてきました。彼らが人種や性的マイノリティなどへの差別に敏感なのはそのためだと思います。

 この点について、社会学者の橋爪大三郎氏と作家の佐藤優氏は、『あぶない一神教』(小学館)の中で次のように述べています。

橋爪 アメリカは移民の国であり、多様な民族が併存し、それぞれにエスニック・アイデンティティがある。また、多様な教会がある。アメリカ人それぞれがさまざまな教会に所属している。しかし、そうした個々のアイデンティティが、アメリカを上回ることはありえない。

佐藤 わかります。アメリカという国家は、アメリカというアイデンティティを崩す危険性を持つ上位概念を見つけるとすぐに潰してきました。たとえば、白人至上主義がそうですし、激しく弾圧したアメリカ共産党もそう。(中略)だからアメリカはイスラム教に脅威を感じ、ムスリムを苛烈に締め付けるわけです。イスラムが「アメリカ」という価値観の上位概念になりうる可能性を秘めているわけですから。

 両氏が語っている「アメリカというアイデンティティ」とは、「アメリカ民族」のことではありません。それは敢えて言うなら、人種や民族、宗教などを超えた共同体のことです。

黄禍論の復活

 トランプはまさにこれに真っ向から反抗しようとしているように見えます。例えば、トランプは選挙期間中、第二次世界大戦中にフランクリン・ルーズベルト大統領が日系アメリカ人を強制収容所に送り込んだことについて、それを支持するかのような発言を行っていました。

 これはつまり、日系アメリカ人はトランプの考える「アメリカ人」ではないということです。もちろん日系アメリカ人だけでなく、中国系アメリカ人や韓国系アメリカ人、メキシコ系アメリカ人、アラブ系アメリカ人なども同様でしょう。

 こうした姿勢は容易に人種主義に結び付きます。トランプの言動はかつての黄禍論を思わせるものです。これが単に選挙用のパフォーマンスだったのかどうかはわかりませんが、もしトランプが本当に人種主義へと舵を切れば、アメリカ国内だけでなく国際社会も大混乱に陥る恐れがあります。(YN)