山岡淳一郎 東芝巨額損失問題の真実

原発に経済合理性はない

 東芝は米原子力子会社ウェスチングハウス(WH)の破産法申請を今月中にも行うのではないかと言われています。一連の東芝巨額損失問題でさらにはっきりしたように、原発には経済合理性がありません。日本政府は一刻も早く脱原発に踏み切り、自然エネルギーをはじめとする代替エネルギーの開発に取り組むべきです。

 ここでは、弊誌4月号に掲載した、原発問題を負い続けてきたノンフィクション作家の山岡淳一郎氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は4月号をご覧ください。

ウェスチングハウスに従属する東芝

── 東芝の巨額損失問題が注目されています。山岡さんは『安倍晋三が〈日本〉を壊す』(青灯社)などで、東芝問題の真相を追求しています。

山岡 事の発端は2006年に東芝がウェスチングハウス・エレクトリック・カンパニー(WH)を英国核燃料会社から買収したことです。WHは当時のレートで約18億ドルと言われていましたが、東芝はその3倍の約54億ドルで買収しています。

 東芝の狙いはWHの加圧水型原子炉を手に入れることでした。WHは1950年代に加圧水型原子炉を開発し、世界各地に100基ほど建設しています。東芝も沸騰水型原子炉は国内で17基つくりましたが、世界の主流は加圧水型原子炉であり、沸騰水型原子炉は少数派です。そのため、当時の東芝会長だった西室泰三氏と社長の西田厚聰氏を中心に、東芝が世界に出ていくためには加圧水型原子炉が必要だとしてWH買収に乗りだしたのです。

 この背景には、米国の原発政策の転換がありました。スリーマイル島の原発事故以降、米国では原発新設が難しくなっていました。しかし、2005年にブッシュ政権が包括エネルギー政策法を作り、いわゆる原子力ルネッサンスを喧伝した。これにより、米政府は電力会社や原子炉メーカーに多額の補助金を出したり、税制を優遇するなど、原発新設を後押しするようになったのです。

 これに最も敏感に反応したのが日本の経済産業省、中でも今井尚哉資源エネルギー庁次長(現・首相政策秘書官)と柳瀬唯夫原子力政策課長(現・経済産業政策局長)の二人です。彼らは原子力産業の日米一体化を進め、日米の電力会社や原子力メーカーが協力して原発を建設するような枠組みを作り上げていきました。

 その意味で、東芝のWH買収は、経産省にとっても都合の良いことでした。もっと言えば、経産省が東芝に「買え、買え」と後押しした。というのも、この買収劇は国際的な原子力産業の秩序を大転換するものであり、東芝の一存でどうにかなる問題ではないからです。

 それまでWHは三菱重工と提携し、東芝と日立はゼネラル・エレクトリック(GE)と提携してきました。長年WHと新型炉を開発してきた三菱重工にとって、東芝のWH買収は許しがたいことです。結果的にWHを横取りされた三菱重工はフランスのアレバと手を組み、東芝に裏切られた形のGEも日立と合弁会社を設立することになったのです。

 このような原発ビジネスの再編を招く決断を、東芝の思惑だけでできるとは思えません。事実関係を突き合わせれば、そこに政府の働きかけがあったことは間違いない。

 もっとも、WHを買収したからといって、東芝がWHの技術を全て手に入れることができたわけではありません。原子力の中枢技術、例えば核反応のデータのチェックの仕方や原子炉設計のノウハウなどは、WHが知的財産としてがっちり握っています。いくら親会社になったとはいえ、東芝は手出しができません。

 原子力の世界では技術が最も重視されます。そのため、技術の中枢を握るWHの主張は、経営にも反映されます。実際、東芝が買収してから2年後のWHの役員リストを見ても、13人の役員のうち日本人はわずか2人です。つまり、東芝がWHを買収したにもかかわらず、実際には東芝がWHに従属するような構図だったのです。……