山野良一 政治が生んだ子どもの貧困

「食べさせられなくてゴメンね」

── 山野さんは『貧困を子どもに押しつける国・日本』(光文社)で、子どもの貧困に警鐘を鳴らしています。

山野 あまり実感がないかもしれませんが、日本は「子どもの貧困」大国です。2014年に厚労省が発表した「子どもの相対的貧困率」は、過去最悪の16・3%。約6人に1人、日本全体で約325万人の子どもたちが貧困に苦しんでいるということになります。

 子どもの貧困率は「貧困ライン」という基準に満たない所得の世帯で暮らす子どもたちの割合です。2012年時点のデータでは、日本の貧困ラインは1人当たり年122万円未満とされています。それに基づいて計算すると、貧困状態にある子どもは、親子2人世帯では年額約173万円(月額約14万円)、親子4人世帯だと年額約244万円(月額約20万円)未満の世帯で生活していることになります。これらの金額は、税金を引いて児童手当を足すなど、所得の再分配を反映済みのものです。

 しかし、この金額は上限にすぎません。貧困ラインの所得額だけでは、貧困状態にある子どもたちが全体としてどのくらい困窮した世帯で生活しているのか分かりません。それを垣間見るひとつの方法は、貧困状況にある子育て世帯の平均的な所得(中央値)を計算するという方法です。すると、大体親子2人世帯では年額約122万円(月額10万円)、親子4人世帯では年額約176万円(月額約15万円)になります。とはいえ、この数字は貧困状態にある子どもたち全体の真ん中の数値をとったものなので、そうした子どもたちの50%はこの金額未満で生活していることになるのです。

 つまり、日本の子どもたちは約325万人(16・3%)が親子2人で月14万円、親子4人で20万円未満で生活している。そのうちの半分、約160万人が親子2人で月10万円、親子4人で15万円未満で生活しているということです。

── 衝撃的な数字ですが、あまり実感がありません。

山野 日本では子どもの貧困が社会的に見えにくいのです。子どもの貧困は地域ごとに違うので、住む場所によって見えにくさも違います。最近、山形大学の戸室健作准教授が各都道府県別の子どもの貧困率を発表しましたが、ワースト1位は沖縄で37・5%です。沖縄の子どもたちは3人に1人以上が貧困状態だということです。

 私も数人の研究者と昨年、沖縄で子どもの貧困について調査しました。小中学生がいる家庭に対するアンケートでは、「この一年間に電気、ガス、水道料金等を滞納したことがある」と答えた家庭は全体で約15%、貧困家庭では約30%でした。また「この10年間で電気、ガス、水道等を止められたことがある」と答えた家庭は約10%、貧困家庭では約20%でした。水道が止められることは稀なので、沖縄の子どもの10人に1人近くは、電気が止められた真っ暗な生活やガスが止められお風呂に入れない生活を経験している可能性を示す結果です。

 電気料金などの滞納だけでなく、必要な食料などの購入ができない世帯も少なくないことが分かりました。実際、児童相談所で児童福祉司をしていた時に出会ったケースには、給料日前になると食料を買えなくなり、ご飯とふりかけ、具なしの味噌汁だけ、あるいはスパゲッティとふりかけだけ、という家庭などもありました。

── 貧困状態にある子どもとは、経済的に生活が苦しい子どもという理解でよろしいですか。

山野 確かに経済的困難は大きな要素ですが、貧困というのは複合的な現象です。経済的困難を中心に、不十分な衣食住、不健康、親の長時間労働、親のストレス、虐待・ネグレクト、無力感、子どもの発達、親族・近隣からの孤立など、様々な問題が複雑に絡み合っています。貧困状態にある子どもは、こういう複合的な問題を抱える家庭で生活しているのです。

 先に上げたような家族のように、ちゃんとした食事がとれなければ、特に子どもは健康に悪影響が出てきます。実際、厚労省の調査に基づいたデータによると、貧困層の子どもは非貧困層の子どもよりも喘息などにかかりやすいことが明らかになっています。一方で、子どもが喘息の発作を起こしても、国民保険の自己負担分3000~4000円が払えない。そのため病院に連れていけず放置せざるを得ない例などもあり、いったん病気に罹患した後の治療にも経済的な影響が及んでいるかもしれません。

 さらに深刻な事例も少なくありません。虐待死は心中を除けば年間約50人ですが、経済的には深刻なケースが約半数を占めます。中には住民票の住所に住んでいない「消えた子ども」が行方不明のまま死に至るケースがあります。2013年に大阪では「食べさせられなくてゴメンね」と記されたメモとともに母子が遺体で見つかっています。「消えた子ども」の場合、当然経済的な問題を抱えていることが多いと推察できますが、2010年の毎日新聞の調査によって、「消えた子ども」は35都市に355人いたことが判明しています。また、文部科学省は、一年以上居所不明なため小中学校に通っていない子どもの数を公表していますが、全国で400人にも及んでいます。……

以下全文は本誌4月号をご覧ください。