森功 パソナのための安倍政権の規制緩和

安倍政権の閣議決定が変えた人材会社の位置付け

── 森さんは『日本を壊す政商』(文藝春秋)で、人材派遣会社パソナグループ代表の南部靖之の実像に迫りました。今日は、南部と二人三脚で利益誘導していると批判される竹中平蔵について伺いたい。彼は、パソナ会長としてどのような役割を果たしているのでしょうか。

 第二次安倍政権が発足してまもなくの2013年2月13日に、「若者・女性活躍推進フォーラム」が開催されました。菅義偉官房長官、麻生太郎副総理・財務大臣ら閣僚9人が出席したこの政策会議で、有識者の一人として参加したのが南部です。

 ここで南部は、労働規制の見直し、国の就職支援事業の見直し、若年雇用支援、緊急雇用創出本部の創設──という4つの提言をし、国の就職支援事業について「政府はここ数年、就職支援などのため大幅な予算の増額をし、ハローワーク相談員を1万人から2万人へ倍増させました。しかし、現行の助成制度では使い勝手が悪い上、職業訓練が企業ニーズにマッチしていません」と語りました。

── 主要経済閣僚が顔を揃える政策会議で、一私企業の社長が自らの企業のビジネスにプラスになるような提言をするということ自体が考えられません。

 パソナという会社は特別な存在になっているということでしょうね。

 ただ、提言をさせただけではありません。南部の提言は、すぐに安倍政権の政策に反映されたのです。わずか4カ月後の同年6月に閣議決定された日本再興戦略にある三つのアクションプランのうちの一つ「雇用制度改革・人材力の強化」には、次のように書かれています。

 〈ハローワークの情報等の民間開放を図りながら、学卒末就職者等の若者や復職を希望する女性等の幅広いニーズに迅速・効果的に応えられるよう、民間人材ビジネスを最大限に活用する〉

 この決定に、厚労省の中堅幹部は強く反発しました。従来、人材ビジネスは、労働行政にとって労働者の権利が守られているかどうかを監視する規制対象業種でした。ところが、この閣議決定は、人材ビジネス会社をハローワークや自治体とともに職業紹介の担い手と認めたものととらえられたからです。

── ハローワークの民間委託は、第一次安倍政権で行われた市場化テストでダメだという結論が出たはずです。

 厚労省は市場化テストの実績評価を公表しており、民間委託した事業は、従来の職安の求人実績より劣っているだけではなく、経費がかさんで赤字に陥ってしまったことがはっきりしています。にもかかわらず、第二次安倍政権はハローワークの民間委託を強行したのです。民主党政権下で厚労大臣を務めた細川律夫は、この決定に呆れ果てていました。

 人材ビジネス会社がハローワークの仕事を受注するメリットは、ハローワークに求人を出している会社の情報を入手し、そこに営業をかけて取引先にできることです。全国の求人情報をいち早くキャッチして、自分のところの登録派遣社員を売り込むことができます。

竹中発言の直後に起こった労働政策の大転換

── 南部が提言するのに合わせて、竹中は産業競争力会議で労働分野の規制緩和を進めてきました。

 竹中は、首相を議長とする政策会議である産業競争力会議の民間議員と人材ビジネス会社会長という二つの顔を持っています。

 竹中は、南部が「若者・女性活躍推進フォーラム」で提言を発表した1カ月後の2013年3月15日に開催された「第4回産業競争力会議」で、重大な発言をしています。

 「雇用調整助成金を大幅に縮小して、労働移動に助成金を出すことは大変重要。是非大規模にやって欲しい。今は、雇用調整助成金と労働移動への助成金の予算額が 1000:5くらいだが、これを一気に逆転するようなイメージでやっていただけると信じている」

 実際に、労働移動支援助成金の増額が2014年度予算に盛り込まれたのです。なんと、前年度予算の2億円から301億円と150倍に拡大したのです。

 人材ビジネス会社の多くは、派遣事業とともに再就職支援事業を行っていますが、特にパソナは再就職支援事業を得意としています。実行部隊はグループ内のパソナキャリアカンパニーです。

 驚くことに、正式に予算が成立してない2013年10月11日に、パソナキャリアは次のような営業メールを得意先である社会保険労務士に発信していたのです。

 〈今後、行き過ぎた『雇用維持型』から『労働移動支援型』への政策転換(失業なき労働移動の実現)として、助成金の予算規模がこれまでとは大きく異なってくることはご存知のことと思います〉……

以下全文は本誌5月号をご覧ください。