鈴木宣弘 大企業による大企業のための農業改革

大企業の、大企業による、大企業のための農業改革

―― 安倍政権は農業に市場原理を導入する農協改革法案を閣議決定しました。これは、昨年5月に規制改革会議の農業ワーキングループが提出した「農業改革による意見」に基づいています。そのメンバーは大企業の役員です。また産業協力会議の農業分科会では、前ローソン社長の新浪剛志氏が主査を務めています。

鈴木 そもそも、この農協改革は誰のため、何のためにやるのか。その内容を見れば一目瞭然です。「今だけ、カネだけ、自分だけ」という私利私欲に塗れた大企業の、大企業による、大企業のための農業改革だと結論せざるをえません。これは「大企業が儲かる農業」をつくるために、農協や農家を中心とする「大企業が儲からない農業」をぶち壊すという改革なのです。

 安倍総理は「もはや、農政の大改革は、待ったなしであります。何のための改革なのか。強い農業を創るための改革。農家の所得を増やすための改革を進めるのであります」と謳っていますが、農家を殺そうとしているとしか思えない。農産物の販売価格と生産コストの赤字を補てんする「戸別所得補償制度」は撤廃する、減反政策を転換して米価は戦後最低水準に暴落する、農家を国際競争に晒すTPP参加を目指す、これで農家が潰れないわけがないではありませんか。

 安倍総理は「日本は瑞穂の国です。息を飲むほど美しい棚田の風景、伝統ある文化。若者たちが、こうした美しい故郷を守り、未来に『希望』を持てる『強い農業』を創ってまいります」と謳いながら、稲作を至難の業にし、コメ農家を窮地に追い詰め、コメ農家の後継者を絶望させているではありませんか。

 結局、安倍総理は本音では99%の農家は潰れてもいい、1%の企業の農業事業が儲かればいいと思っているのでしょう。「農家の所得を増やす」といいますが、その「農家」とは既存の農家ではなく、農業に参入した企業のことだというにすぎません。

 安倍政権は農家の所得を増やすために農業の効率化、具体的には農地の集積化を進めています。要は、企業に平場の良い農地を使わせて「強い農業」を創るということです。現に「農業特区」として新潟市の国家戦略特区でローソンファームが農業に参入しています。

 このような企業の農業参入と並行して、農地転用の規制を緩和する地方分権一括法案、地方再生改正法案が閣議決定されています。さらに農水省の反対で断念したものの、企業の農業生産法人に対する出資比率を25%から50%超に緩和して、実質的に企業の農地保有を解禁する戦略特区改正法案も閣議決定する方針でした。

 安倍政権は農協・農家を犠牲にして企業が儲かる農業を目指しているわけですが、しかし、TPPに参加すれば企業の農業も潰れます。政府の全面的な支援をうけている外国の農業に一企業が勝てるはずがないからです。結局、企業は一時的に農業で稼いで、それができなくなったら農地を転用するなり売却するなりして利益を得ることになるでしょう。安倍政権の農業改革は「大企業が稼げる農業」かつ「大企業が稼げる不動産業」の二段構えだということです。日本農業はこうして滅びるのです。

「協同」を否定し「競争」を肯定する改革

―― 農協改革案について具体的に伺えますか。

鈴木 農協改革は、「協同」ではなく「競争」で農業をやるのだという発想に貫かれています。その具体的な内容は、①JA全中の指導・監査の撤廃および一般社団法人化、②JA全農の株式会社化という二本柱です。

 まずJA全中の改革、これは各農協の自立を促すためだと言われていますが、本当の狙いはTPPに反対する「抵抗勢力」である農協を潰すことです。JA全中という司令官を解体すれば、JAグループの結集力がなくなり、組織的抵抗ができなくなります。TPP交渉が大詰めを迎えるなかで、抵抗勢力を片付けたということです。そしてTPPに参加して日本農業は競争に晒されます。……

以下全文は本誌5月号をご覧ください。