日本は「野蛮なる敵国」であることを受け入れた
── 日本は中国に対してどう向き合っていけばいいのでしょうか。
西部 日本人の間に反中感情や反韓感情が高まることそれ自体は、むしろ健全なことです。しかし今の日本人に、高らかに反中、反韓を唱える資格があるのか、今一度問うてみる必要があります。我々日本人が置かれた立場を顧みよということです。
大東亜戦争最中の1943年11月22日、アメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領、イギリスのウィンストン・チャーチル首相、中国国民政府の蒋介石主席がカイロで会談し、12月1日に「カイロ宣言」を発表しました。驚くことに、この宣言には「三大同盟国ハ海路陸路及空路ニ依リ其ノ野蛮ナル敵国ニ対シ仮借ナキ弾圧ヲ加フルノ決意ヲ表明セリ」と書かれているのです。「野蛮なる敵国」(brutal enemies)に弾圧を加えるのだ、と。このカイロ宣言の方針が連合国の基本方針となり、ポツダム宣言にも継承されていくのです。そして、ポツダム宣言に基づいて東京裁判が開かれ、でっち上げによって日本は断罪されることになったのです。しかも、そのでっち上げに基づいた判決を受け入れる形で、1951年9月8日にサンフランシスコ講和条約が結ばれたのです。
つまり、カイロ宣言にあった「野蛮なる敵国」であるということを受け入れた上で、日本は主権を回復したことになるわけです。日本人がこのポツダム体制を受け入れたままでは、中国や韓国から何を言われても仕方がないということになるでしょう。ポツダム思想に基づいて日本を非難してくる中国や韓国に、果たして反論することができるのかということに、思いを致すべきなのです。
逆に言うと、我々が日本に対する韓国や中国からの悪宣伝を退けたいのならば、ポツダム体制そのものに対して、自ら再解釈を加えなければならないのです。
外交的宣言や法律の字面だけを見れば、日本は「野蛮なる敵国」とみなされましたが、あれは戦争という物理的な衝突における大敗北の結果定着した政治的妥協に過ぎなかったわけであり、大日本帝国にも他国に劣らぬ正義、正当性があったのです。そのことを少なくとも国民の多数が高らかに宣言し、そうした主張をする政治家を選んで、初めてまともな国家になれるのです。
いま文春や新潮は、慰安婦報道をめぐって朝日新聞を激しく攻撃しています。もちろん、朝日がやったことは思想的な犯罪であり、それを叩いて喜ぶのも結構ですが、朝日を叩くだけでは問題の解決にはならないということです。日本の言論を根本的に糺すのならば、まずポツダム体制そのものを拒否する姿勢を示さなくてはならないのです。ところがわが国では、最近まで日米関係絶対論が言論界を支配していました。もちろん、政治は妥協ですから、日米関係を優先せざるを得ない局面もあったでしょう。しかし、「アメリカ的なものを受け入れることが近代化であり、文明の進歩である」などと思い込むような状態が続いてきたことは異常です。
プーチンが直面していることは日本が経験したことだ
── いかにして対米自立を図るべきですか。
西部 今秋のプーチン大統領来日の可能性が残されていた時期に、私は安倍総理に会う機会がありました。そのとき私が安倍総理に言ったのは、「アメリカからの牽制を何とか掻い潜ってプーチンとの会談にこぎつけてもらいたい。今秋が無理でも早期来日に結びつくよう対話を続けてもらいたい」ということです。そう言った理由は、ウクライナ問題を、欧米の自由民主主義に対するプーチンの独裁主義、国家主義というコントラストでとらえるような思考から脱却しなければならないと強く感じていたからです。
そもそもウクライナ問題は、ウォール街の金融資本の後押しを受けたCIAなどの勢力が反プーチンのクーデターをやらせたことから起こった問題です。莫大な資金を保有するゴロツキたちが、ロシアの資源をわが物とはできないまでも、カネ、情報、武器の力で自家薬籠中の物にしようとしたのです。その背景にあるのは、一種の政治的宗教とも言うべき「自由民主主義に優る思想はない」という思い込みです。こうした欧米の攻撃にプーチンが抵抗するのはごく正当なことなのです。
そのように解釈することは、とりわけ日本人にとって大事なのです。それは、自らがプーチンと同様の経験をしてきたからです。明治日本は近代化に踏み切りましたが、西洋の猿まねをしたのでは、自分たちの国家はやがて解体させられてしまうと気づき、日本的な近代化を目指しました。「国民の文明」を発展させようとしたということです。そうした先人の苦悩、わが国が歩んできた歴史に対する認識がなければ、プーチンが直面している状況を理解できるはずがありません。
プーチンが目指しているのは、1990年代のエリツィン時代に解体された国家を再建して、スラブ的、ロシア的なるものを再確立することです。そのことを先進国の中では、まず日本が理解しなければならないはずです。ところが、「ジャップ」どもには西洋に抵抗しつつ、西洋を受け入れたわが国の歴史についての認識がないから、プーチンの置かれた状況が理解できない。……
以下全文は本誌12月号をご覧ください。