自衛隊派遣は国会の承認を得られるか
―― 春名さんは共同通信の記者としてアメリカで活躍されていました。今回の安倍総理の訪米をどのように評価していますか。
春名 安倍総理は昨年から一貫して訪米シフトを敷いてきました。安倍総理がイスラム国の人質事件やAIIBの問題などでアメリカと意見の食い違いが表面化しないような方向を模索していたのも、訪米を成功させるためという観点から見れば説明がつきます。安倍総理の頭にはアメリカのことしかなかったのだろうと思います。
他方、オバマ大統領にとっても安倍総理の訪米には大きな意味がありました。彼の任期はあと1年半しかなく、放っておけばこのままレームダック化が進んでしまう恐れがあります。政治的な成果を上げることができるとすれば、キューバとイラン、TPPしかありません。そこに、安倍総理が新たな成果を持ち込んでくれたわけですから、オバマ大統領は個人的にも非常に喜んでいたはずです。
―― 安倍総理が持ち込んだ新たな成果とは何でしょうか。
春名 アメリカにとって重要なのはやはり日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の改定です。しかし、日本から見れば、今回のガイドラインには主に三つの問題があります。
一つ目は、アメリカに過大な期待を持たせてしまった可能性があることです。今回のガイドライン改定により、日米安保条約の対象地域は世界全体にまで拡大しました。1996年に合意された日米安保共同宣言によって、それまで極東に限定されていた対象地域がアジア太平洋にまで拡大しましたが、それ以来のことです。今後、自衛隊は世界中至るところで米軍の後方支援を行うことになります。
「後方支援」と聞くと、あたかも米軍の遥か後方にいて危険はないように思われるかもしれませんが、国際的には後方支援という概念はなく、軍事用語にもありません。あえて英語に翻訳すれば「battle service support」です。つまり、後方支援とは地理的な概念ではなく、戦闘を助ける行為のことを指すのです。
小泉政権がサマワに自衛隊を派遣した際は、自衛隊が活動する地域は、現に戦闘行為が行われておらず、かつ将来にわたっても行われる見通しがない場所に限定されていました。これに対して、安倍政権が昨年行った集団的自衛権の行使容認に伴う閣議決定では、自衛隊の活動地域は「現に」戦闘行為が行われていない地域と規定されました。つまり、将来戦闘が行われる可能性があったとしても、現に行われていない地域であれば支援活動を行うということです。
このように、自衛隊は今後、非常に危険な任務に就く可能性があります。現在の安倍政権の方針では、自衛隊を他国軍の後方支援のために派遣する際には例外なく国会の事前承認が必要とされているため、場合によっては国会の承認が得られないということも十分にあり得ます。アメリカは日本が必ず自衛隊を派遣してくれると期待しているようですが、実際に自衛隊が派遣されるかどうかはその時の国会の判断次第なのです。
安倍政権はアメリカに尖閣防衛を明言させよ
―― 日米ガイドラインのあと二つの問題点とは何ですか。
春名 二つ目は、自衛隊は海外派遣を前提とした部隊ではないため、人員が非常に少なく、どこまでアメリカの要請に応えられるか定かでないことです。もしアメリカの要請に応じて自衛隊を次々海外に派遣することになれば、その分日本の本土防衛が手薄になってしまいます。このような事態を避けるためには、自衛隊員を増員するしかありません。
しかし、自衛隊の人員不足は現在でも既に深刻な問題になっています。少子高齢化により子供の数が減っているため、このままいくと、高校卒業者の7人に1人が自衛隊に入らなければ自衛隊は定足数を満たせなくなるという防衛省の算定もあります。このような状況で、果たして自衛隊を海外に派遣する余裕があるのかどうか疑問です。
そして三つ目は、日本が世界各地でアメリカの支援を行う一方で、日本が攻撃を受けた場合にアメリカが本当に日本を守ってくれるかどうか不確かであることです。今回のガイドラインでは、日本に対する武力攻撃が発生した場合、アメリカは日本に対して「適切な支援を行う」と記されています。「適切な支援」とは、例えば現在行われているサウジアラビアとイエメンの戦闘において、アメリカはサウジアラビに偵察衛星の情報を渡していますが、これでも「適切な支援」です。さらに言えば、攻撃するかどうか考えることも「適切な支援」の検討に含まれます。
現在の日米安保条約では、日本が攻撃を受けた場合、日米両国は「危険に対処する」とされています。具体的に言えば、共に戦うということです。これと比べると、「適切な支援を行う」という規定はむしろ後退しているとさえ言えます。……
以下全文は本誌6月号でお読みください。