沖縄米軍基地政策を根本的に見直せ

沖縄女性殺害事件はタイミングの問題ではない

 沖縄県うるま市に住む島袋里奈さんの遺体が恩納村の雑木林で見つかり、元アメリカ海兵隊員で嘉手納基地で働く米軍属のシンザト・ケネフ・フランクリン容疑者が、死体遺棄の容疑で逮捕されました。沖縄からは強い反発の声が上がっており、事件に抗議する県民大会の開催も検討されています。

 5月20日付の朝日新聞では、この事件がサミットやオバマ大統領の広島訪問などに影響を与える可能性があるとして、安倍内閣の閣僚の一人が「タイミング的にまずい。大変なことになった」と述べたと報じられています。しかし、これはタイミングの問題ではありません。サミットやオバマ広島訪問がなければ、このような事件が起こっても良かったとでも言うのでしょうか。

 ここからも、日本政府がいかに沖縄を軽視しているかがわかります。政府がこのような対応を続ける限り、政府と沖縄の距離はどんどん開いていき、沖縄の独立気運が強くなっていくことは避けられません。日米両政府は根本的に沖縄米軍基地政策を見直す必要があります。

 ここでは、弊誌2015年9月号に掲載した、作家の佐藤優氏と哲学者の山崎行太郎氏の対談「日本を亡ぼす『反知性主義』」を紹介したいと思います。


「沖縄を理解できない」ということを理解せよ

山崎 無知蒙昧型の反知性主義は、沖縄問題をめぐる議論に顕著に表れていると思います。本土では小林よしのりのような人が、沖縄が基地反対運動をしているのはお金がほしいからだとか、こういう議論をしていますよね。

佐藤 自分がそういう人間だから、そのように見えるというだけの話ですね。

山崎 そうですね。しかし、保守文化人たちがいくらこのような批判をしたところで、現在の沖縄情勢には何一つ影響を与えることができません。彼らはそのことがわかっていない。

 僕は沖縄について議論するためには、今の米軍基地問題を見ているだけでは本質が見えないと思うんです。米軍基地問題だけでなく、沖縄の歴史を辿り、琉球処分やその前の琉球王国の歴史を知る必要があると思います。

佐藤 それから特に1609年の琉日戦争ですね。

山崎 そうした歴史を見れば、沖縄が独立する可能性があることは誰にだってわかるはずです。例えば、柄谷さんは沖縄をスコットランドと比較し、「なぜスコットランドが独立を望むのか、私にもよく事情が理解できない。しかし、むしろそれ以上に理解しがたいのは、琉球が日本から独立しないでいることである」と言っています。

 ところが、小林よしのりや櫻井よしこなどは、スコットランドと沖縄をリンクさせて見ることができない。また、彼らは中国のチベット問題を厳しく批判していますが、沖縄が日本のチベットになり得るということに全く気づいていない。

佐藤 あの人たちにはそれはできないですね。チベット問題は非常に深刻ですが、あの人たちは政治主義的に利用しているだけです。

 しかし、これはある意味で仕方がないことなのかもしれない。人口の圧倒的大多数を占める均質な99%の日本人たちが、1%の沖縄人たちが持つ澱や襞を理解できないのはある意味で当然のことです。

 となると、「沖縄を理解できない」ということを理解するという想像力を持てるかどうかですね。「理解不能だが、たぶん自分たちとは違うことを考えているんだろう」と思うことができるかどうか。それから、一寸の虫にも五分の魂で、人間は追い込まれた時にどういうことをするかということに対する想像力を持つことができるかどうか。

山崎 僕は沖縄が現在の危機的状況を逆手にとり、アメリカや国連を通じて日本政府を動かし、基地問題を解決することが必要なのかなという風に思っているんですが。

佐藤 今の沖縄には戦略的に大きなプランに基づいて何かをやるという余裕はないですね。ただ、沖縄の自己決定権は完全に確立しているんですよ。ここ2、3年で沖縄人のアイデンティティが変容していますから。沖縄ではこれまで、ルーツは沖縄だけれども自分は日本人だと考える「沖縄系日本人」が大多数を占めていました。しかし今では、沖縄の利害と日本全体の利害が対立した場合は沖縄の利害を優先する「日本系沖縄人」が大多数になっています。それだから、沖縄は、独立しようと思えばできるが、今は自発的に日本の一部になっているという状況ですね。

 問題は、今の中央政府のやり方と国民の無関心です。私は『AERA』(8月10日増大号)で翁長知事にインタビューをしたのですが、翁長さんたちが一昨年にオスプレイ配備撤回を求めて東京でデモをした時に、在特会の人たちが来て「沖縄の連中は非国民だ」、「日本から出ていけ」とヘイトスピーチをやりました。

 翁長さんは、そういう連中はどこにでもいるからそのこと自体は気にならなかったけども、在特会に対して「あれは一体何をやっているんだろう」と足を止める一般市民が一人もいなかったことにショックを受けたと言っていましたね。一昔前なら、在特会に対して「この人たちは何て異様なことを言っているんだろう」と関心を持つ人がいたけれども、今では完全に関心の外にあるということで、「ああ、日本は変わってしまった」という印象を持ったそうです。

山崎 僕は最近しつこく沖縄独立論、琉球独立論の可能性について書いているんですが、佐藤さんから見て琉球独立論が現実化する可能性はありますか。

佐藤 近未来にはないですね。それが起きるのは、沖縄人の大多数にとって日本が完全に敵のイメージになった時です。その場合は、限りなく内戦に近い状況を経ているでしょうね。内戦の規模がどれくらいになるかは別だけども、日本人と沖縄人の間で殺し合いが起きることなくして独立はありません。日本人と沖縄人がすれ違った時、お互い「殺されるんじゃないか」と思うような、そのような緊張が生じるようになって初めて独立です。

山崎 沖縄は米軍基地問題を解決しようとしているという意味では、対米自立論が強いとも言えますよね。それに対して、日本本土はすっかり対米自立の気概をなくしてしまっています。だから僕は、保守文化人たちが言うように沖縄を本土化するのではなく、逆に本土を沖縄化することが必要なのかなと思います。

佐藤 難しいところですね。私は、無理して一体化する必要はなく、本土と沖縄は棲み分けた方がいいんじゃないかと思っているんです。本土では日本人が少しでかい面をしているけど、沖縄では沖縄人が少しでかい面をしていると。こういうような形の連邦制みたいな方向に向かっていくのが現実的な解決策かなと思います。……

 この対談では、沖縄問題だけでなく、反知性主義の問題や憲法問題、ロシア問題など、多岐にわたって議論が行われました。全文はウェブサービスnoteでは100円でお読みいただけます。是非ご覧ください。(YN)