イギリスの弱体化が止まらない

イギリスはテロを防げるか

 1月3日にイギリスのEU離脱交渉でカギを握る駐EU大使のアイバン・ロジャーズ氏が辞任を表明しました。ロジャース氏は離脱交渉は容易ではないという認識を持っていましたが、強硬な離脱派たちがロジャース氏の見解を「悲観論だ」と一蹴するなど、離脱の見通しをめぐって意見の相違があったようです(1月5日付東京新聞)。

 現在、イギリスのメイ政権は、EU単一市場の恩恵を保ちつつ移民の流入を制限しようとしています。これに対して、EU側は「いいとこ取り」は許さないという姿勢を示しています(同前)。メイ政権はEU側を押し切れると考えているのかもしれませんが、現在のイギリスとEU(主にドイツ)の力関係を考えれば、イギリスの要望を全て通すことは困難です。イギリスがそのことを理解できないのは、自分たちの国力を客観視する余裕さえなくなっているからだと思います。

 今のイギリスは目先の利益ばかり追いかけており、もはや帝国としての力も誇りも失ってしまっています。イギリスが現在の体制を立て直すことができなければ、イギリスでも大規模なテロが起こるかもしれません。

 ここでは、弊誌2016年8月号に掲載した、作家の佐藤優氏と哲学者の山崎行太郎氏の対談を紹介したいと思います。なお、ウェブサービスnoteにご登録いただくと、この対談の全文を100円で読むことができます。noteの登録は無料です。是非お試しください。(YN)
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当事者意識を著しく欠くイギリス

佐藤 問題は、日本人に当事者意識が著しく欠けていることです。今行われているのは、ローマ教皇の言う通り、目に見えない形での第三次世界大戦です。我々は既にISと交戦状態に入っているんですよ。

山崎 昨年1月に、安倍総理がカイロでIS対策としてイラクやレバノンなどに2億ドルを支援すると発表していますからね。

佐藤 それだけでなく、日ロ首脳会談やG7でもテロとの戦いを支援すると言っています。いくらアメリカが嫌いだったとしても、消費文明を謳歌している以上、我々はそちらの陣営に入らざるを得ません。その自覚がどれほどあるかということです。

山崎 多くの日本人にはそういう意識はありませんね。岸田文雄外務大臣たちが羽田空港で犠牲者を出迎えていましたが、彼らを戦争の犠牲者のように受け止めている人はほとんどいないと思います。

佐藤 ただ、これは日本人だけの問題ではないのかもしれません。同じような当事者意識の欠如は、イギリスのEU離脱の際にも見られました。

 イギリスのEU離脱は世界の命運を左右するかもしれない大変な問題です。これはイギリス自身にとっても重大な問題ですよね。これをきっかけにスコットランドが独立すれば、スコットランドが王制を廃止して共和制に移行する可能性だってあるわけですから。

 ところが、離脱派の中心となった前ロンドン市長のボリス・ジョンソンは、保守党の党首選からトンズラしちゃうわけでしょう。仮に彼が党首になって、その後にイギリス経済が混乱したとしても、命までとられるわけではありません。しかし、それすら怖いわけですよ。いかに無責任に離脱の旗を振っていたかということです。

 イギリス国民もイギリス国民で、EU離脱が決まった途端、アイルランドのパスポートをとるために殺到するわけです。アイルランドはEUに加盟しているので、アイルランドのパスポートをとれば、引き続きEU域内を自由に行き来できます。要するに、自分の生活のことしか考えていないんですよ。

 このようなイギリス人の在り方と、かつてイギリスの植民地だったバングラのテロ実行犯の在り方、どちらの方が精神的に強いでしょうか。イギリスの負けは明らかですよね。