安倍首相の対応は不誠実だ
12月29日に稲田朋美防衛相が靖国神社を参拝したことを受けて、アメリカの国務省当局者は「われわれは歴史問題には癒やしと和解を促進して取り組むことが重要だと強調し続ける」と述べ、慎重な対応を求めました(12月30日付時事通信)。また、中国や韓国からも批判の声が上がっています(12月29日付日テレNEWS24)。
これに対して、安倍首相は稲田大臣の靖国参拝について記者団から問われた際、「ノーコメント」としか述べませんでした(12月29日付日経新聞)。これは極めて不誠実な対応です。安倍首相が靖国参拝は極めて重要なことだと考えているなら、稲田大臣をきちんと擁護すべきであり、問題があると考えているなら、苦言を呈すべきでしょう。
死者の慰霊という問題は極めて重要なものです。特に自衛隊が南スーダンに派遣されていることを考えれば、明日にでも戦死者が出てもおかしくありません。しかし、今回の安倍首相の対応を見る限り、安倍首相がこの問題について真剣に考えているとは思えません。外国が批判してくるかどうかに関係なく、果たして安倍首相に靖国神社を参拝する資格があるか、疑問を覚えざるを得ません。
ここでは、『日本会議をめぐる四つの対話』(弊社刊)に収録されている、著述家の菅野完氏と國の子評論社社主の横山孝平氏の対談を紹介したいと思います。
「戦死者」をどのように慰霊すべきか
菅野 ……そこでは想定されていなかった問題が安保法制で出てきちゃったわけですね。つまり、自衛隊の方が亡くなる可能性が出てきた。
横山 そうですね。
菅野 靖国神社がそれにどう対応するかという問題があります。
横山 靖国神社自身は対応できないでしょう。自衛隊員が戦死したとする場合、慰霊の形をどうするのかというのはすごく難しい問題です。もし靖国神社の慰霊の形と安保法制以降の慰霊の形が違うとなれば、それでは国家が違うのかという議論になってしまいます。
菅野 おっしゃる通りです。市ヶ谷にも慰霊碑はありますけど、慰霊碑があそこに一本化されるとすれば、靖国神社に祀られている人たちと市ヶ谷に祀られている人たちには連続性がないのかという話になってしまいます。
これは決して現実離れした話ではありません。南スーダンに自衛隊が派遣されていることを考えると、ひょっとしたら明日にでも戦死者が出るかもしれません。そのようなことが起きてしまった場合、安倍政権は一体どうやって対応する気なのか、全く見えてきません。
横山 駆けつけ警護なんてやれば一瞬で的にされますからね。
菅野 現行憲法がどうであれ、我々はすでに自衛隊の人たちを死地に赴かせていて、しかも彼らが亡くなった場合にどう扱うかという議論をせずに「死んでこい」と言っているわけです。これはすごく醜悪なことだと思います。
横山 そうですね。三島由紀夫さんも言っているように、自衛隊は「護憲の軍隊」で「外国の傭兵」なんだけれども、現場に行く自衛隊員は軍人だから命令に従うんですよ。でも、もし亡くなってしまったとしても、何の名誉もないし、外国に出張して事故死したような扱いをされてしまいます。僕には政府がどこまで議論しているのかはわからないけれども、現状を見れば何も議論していないと考えざるを得ないところはあります。
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