安倍首相の真珠湾訪問をどう見るか

「戦後レジームからの脱却」を諦めたのか

 明日12月28日、安倍首相は真珠湾を訪れ、オバマ大統領とともに戦没者の慰霊を行うことになっています。安倍首相の目的は、不戦の決意と、日本とアメリカの和解を強調し、強固な同盟関係を内外に示すことだと言われています(12月27日付NHKニュース)。

 日米の和解を実現すること自体は極めて重要なことです。その意味で、今回の訪問は高く評価すべきことだと思います。

 しかし、問題は、真珠湾訪問が安倍首相の主義主張とどれほど合致しているかということです。今回の真珠湾訪問は、たとえ安倍首相が明言しなくとも、アメリカ側への謝罪という意味を持ちます。これは安倍首相が掲げてきた「戦後レジームからの脱却」に矛盾することだと思います。安倍首相がこの点をどのように整理しているのか、全く見えてきません。

 もちろん「戦後レジームからの脱却」を諦めたというのなら、それは一つの政治的判断としてはあり得ることでしょう。あるいは、真珠湾訪問は単なるパフォーマンスにすぎず、実際には「戦後レジームからの脱却」を実現するタイミングを狙っているという可能性もあります。

 安倍政権の支持者には後者の見解をとる人が多いようです。彼らに言わせると、アメリカが安倍首相の靖国参拝にクレームをつけてきた時に、安倍首相の盟友である衛藤晟一議員が「失望したのは我々の方だ」とアメリカを批判したことなどから、安倍政権には対米自立的な要素があるということになるようです。

 しかし、その認識は決して正しいとは言えません。衛藤議員の発言はむしろ、あまりにも対米従属的であるからこそ飛び出したものだと見た方がいいでしょう。

 ここでは、『日本会議をめぐる四つの対話』(弊社刊)に収録されている、著述家の菅野完氏と京都精華大学専任講師の白井聡氏の対談を紹介したいと思います。

対米従属について語らない理由

白井 これは私の問題系に引きつけた質問なのですが、アメリカの主導のもと戦争をできる体制にするということはまさに対米従属ですよね。日本会議は対米従属については何も考えていないんでしょうか。

菅野 彼らは対米従属について全く考えていません。見事なほどに考えていません。

白井 日本会議が現行憲法を批判するのは、対米従属についてきちんと考えずに、感情ベースでのみ捉えているからじゃないかと思います。彼らがなぜ憲法のような抽象物をあれほど憎めるのだろうかと考えた時、あれは反米感情の代償行為だと思うんです。つまり、戦後憲法がけしからんと言うのなら、本来であれば憲法を作ったアメリカを批判すべきですが、それができないものだから、アメリカを憎む代わりにアメリカの置き土産を憎んでいるんですよ。

 安倍さんの姿勢は明らかにそういうものだと思うんだけども、彼自身は全くそのことに気づいていませんよね。なぜこれほど明瞭なことに気づくことができないのか、実に不思議です。異様な対米従属が、これまた異様な戦後憲法憎悪によってカウンターバランスをとられるということに、事実上なってしまっています。

 これは、日本会議がリベラルなものに対してほとんど生理的なまでに嫌悪感を持っていることについても言えると思います。なぜ日本が一応自由民主主義を公的価値とする社会になったかと言えば、要はGHQがそのように改革をしたからです。だから、リベラルな権利要求を批判するなら、そのような社会作りを強制したアメリカに従属していていいはずがない。だけど、彼らには対米従属という問題系は全然ありませんよね。

 もちろん、彼らが全くアメリカを批判しないということではありません。例えば、2013年に安倍さんが靖国神社に参拝した時、アメリカ政府が「失望」を表明しましたよね。それに対して、自民党の衛藤晟一さんが「失望したのは我々の方だ」という名言を吐いていましたよね。

菅野 衛藤さんは生長の家出身で、日本会議国会議員懇談会にも所属していますね。

白井 しかし、衛藤さんの振る舞いは決して反米ということではありません。あそこに端無くもあらわれているのは、彼らにとって日米関係は親子関係だということです。衛藤さんの反発は、「親が子供のちょっとしたやんちゃを大目に見るのは当たり前じゃないか」という話ですよ。

菅野 おっしゃる通りです。世の中の識者はあれを反米メッセージとして取り上げていましたが、あれはお父ちゃんにちょっと怒られたから、「なんで怒るんだよう」と駄々をこねてみたということですよね。本来であれば、なぜホワイトハウスが「失望」というメッセージを出したのか、それを分析し、冷静に行動しなければなりません。衛藤さんがそうしたこともせずに感情的な反応を示してしまったのは、アメリカとへその緒でつながっているからです。

白井 そう、だから胎児なんですよ。

菅野 自分たちがアメリカの内部の人間だと思っているから、ああいう反応になるんです。もし中国が同じ立場に立たされたら、もっと理知的な反応をしたと思います。

白井 マッカーサーの有名な言葉で、日本人の精神年齢は12歳だというのがあるけども、それでは今の日本人は何歳なのかと言えば、とても成熟しているとは思えません。

菅野 むしろ退行しています。

白井 そうです。アメリカと母子一体になっているわけですからね。

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