日本経済に宣戦布告したトランプ

日米貿易摩擦時代が再来

 アメリカのトランプ次期大統領が1月5日のツイッターで、トヨタがアメリカ市場向けの自動車をメキシコの工場で生産するならば、多額の税金をかけると述べました。トランプはそれまで主に中国の為替操作などを批判していたため、日本の保守派の中にはトランプを支持する声もありました。彼らとしては、まさかトランプが日本企業をターゲットにするとは思ってもみなかったのではないでしょうか。

 しかし、トランプが日本にも圧力をかけてくることは十分に予想できたことです。トランプは以前より、二国間貿易協定を進めると述べていました。トランプがここで念頭に置いていたのは、日米貿易摩擦時代のような交渉だと思います。そこから考えれば、トヨタへの圧力はまだまだ序の口にすぎません。トランプは日本に対してさらに強い圧力をかけてくるはずです。我々はトランプが日本経済への宣戦布告に踏み切ったと見なければなりません。

 ここでは、弊誌2017年1月号に掲載した、立教大学教授の郭洋春氏のインタビューを紹介したいと思います。なお、ウェブサービスnoteにご登録いただくと、このインタビューの全文を100円で読むことができます。noteの登録は無料です。是非お試しください。(YN)
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TPP以上に厳しい日米二国間協定

―― トランプ氏は大統領就任当日にTPPから撤退し、その代わりに二国間貿易協定を進めると述べています。そこでTPP以上に厳しい要求を日本に突きつけてくる可能性があります。

 もともとTPPは、参加国のGDP総額の約9割を日米が占めていたため、実質的には日米二国間協定でした。しかし、TPPの場合は、たとえアメリカが理不尽な要求をしてきたとしても、アメリカを除く11カ国が共同歩調をとることでアメリカに対抗することもできました。

 これに対して、完全なる二国間協定の場合は、いわゆるガチンコ勝負になります。トランプ氏は日本によってアメリカの雇用が奪われていると述べ、特に日本の自動車産業を目の敵にしています。また、トランプ氏は中国の為替操作を批判していますが、日本円も下落しているため、円安の是正を求めてくる可能性もあります。誰も日本に味方してくれない状況の中で、果たして強硬な態度を示すトランプ氏と対等に渡り合うことができるのか、心もとないと言わざるを得ません。

 安倍首相は日米二国間協定に否定的な態度を示していますが、最終的には二国間協定を締結すると思います。なぜかと言うと、安倍首相はTPPを成長戦略の柱として位置づけていたため、そのTPPが頓挫してしまった以上、代わりの成長戦略を打ち出さざるを得ないからです。成長戦略が失敗したということになれば、現状では金融緩和も財政政策もうまくいっていないため、アベノミクスは完全に失敗だったということになってしまいます。それを避けるためは、安倍首相はどうしても日米二国間協定を新たな成長戦略として進める必要があるのです。

 しかも、安倍首相は既にトランプ氏と会談を行っています。そこで「良好な日米関係を構築しましょう」などと言っているはずですから、ここで二国間協定を締結しないということになれば、その信義を裏切ることになります。

 このように、安倍首相は日米二国間交渉に参加すればアメリカから強い要求を突きつけられ、参加しなければアベノミクスは失敗だと見なされ、さらに日米関係も悪化してしまうというように、厳しい立場に追い込まれてしまっています。まさに前門の虎、後門の狼といった状況です。

韓国の状況は他人事ではない

―― 日米二国間協定について考える上で参考になるのが米韓FTAです。韓国経済はこれによって大きな打撃を受けたと言われています。

 米韓FTAは2012年3月に発効しましたが、それから3年間でアメリカ車の対韓輸出は3倍に増えています。また、ソウル市内に営利病院が次々と作られており、医療格差が広がっています。特に経済特区にはアメリカ資本によって大病院が建設され、通常の6〜7倍もの医療費がとられるなど、アメリカのような医療環境が生まれています。

 しかし、アメリカは現在の米韓FTAに満足しておらず、さらなる自由化を進めるために再交渉を要求しようという動きを強めています。アメリカは当初、韓国側が再交渉を要求した際には、交渉には応じないと言っていたわけですから、身勝手だと言わざるを得ません。
 今は韓国の情勢が混乱しているため、米韓FTAの再交渉についての議論は行われていません。しかし、韓国の暫定政権か、あるいは新政権において再交渉が始まる可能性があります。その際にはトランプ氏は韓国に対してかなり強い要求を行うはずです。