なぜ櫻井よしこ氏は変節したのか

生前退位に反対する日本会議関係者たち

 8月8日の天皇陛下の「おことば」を受け、安倍総理は私的諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を設置し、有識者に対するヒアリングを始めました。有識者会議の問題点は弊誌12月号で取り上げましたので、ご一読いただければと思います。

 この有識者ヒアリングでは、「おことば」に反するような意見も出されています。例えば、ジャーナリストの櫻井よしこ氏は「基本的に譲位に代わる摂政か、そのほかの道を探るのがよいという意見を申し上げてきました」として、次のように述べています(11月14日付産経ニュース)。

「今日どのような立場でお話を申し上げるかについてすごく悩みました。このようなことを言って恐れ多いと思いますが、長い長い日本のこれからのことを考え、国家の問題をどう扱うかということを考えたときに、やはり情を大事にしながらも理に足を置くべきだという結論に達しまして、譲位ではなく、摂政の制度をその他の工夫も加えながら活用するのが良いと言ってきました」

 もっとも、櫻井氏は、「おことば」が出された直後は「天皇陛下のお気持ちは、個人として話されたことであるが、軽んじてはならない」として、譲位に慎重な姿勢を見せながらも天皇陛下のお気持ちを尊重する態度を示してきました(8月9日付産経ニュース)。これに対して、櫻井氏と関係の深い日本会議関係者たちは当初より天皇陛下の生前退位(譲位)に反対してきました。しかも、それは櫻井氏のような慎重な態度ではなく、天皇陛下を批判するかのような強い態度でした。櫻井氏も彼らと議論する中で変節していったのかもしれません。

 ここでは、弊誌10月号に掲載した、『日本会議の研究』の著者である菅野完氏と民族派・國の子評論社社主の横山孝平氏の対談「靖国神社を私物化する日本会議」を紹介したいと思います。

百地章こそ天皇陛下を政治利用している

―― 最後に、8月8日に天皇陛下が表明された「おことば」について伺いたいと思います。これについて、憲法学者で日本会議とも関係の深い百地章氏が、8月9日の沖縄タイムスで、「憲法が天皇の政治への関与を禁じている中で、陛下の言葉や考えそのままに政治が動いていいのかという疑問がある。仮に陛下が女性宮家や女系天皇を望まれたら、そのまま法改正につながってしまうのではないかと懸念する」と述べています。

菅野 僕は日本会議の関係者がこういう主張をするのではないかと予想していたのですが、この百地章の主張の根幹にあるのは女性に対する蔑視です。日本会議は皇室崇敬の念よりも女性蔑視の方が先に来るんです。彼らが皇室典範の改正に反対しているのも、女系論争が再燃する可能性があるからという、ただその一点だけなんですよ。

横山 僕個人は女性宮家創設や女系天皇については批判的です。ただ、今回の天皇陛下のおことばは、象徴としてのおつとめを十分になされるためにはどうすればいいだろうかというご苦悩を示されたものであり、それについて議論をしてほしいと言われたものだと思うんです。だから、おそらく新しい制度設計をしなければいけない時だと思います。ただし、その制度設計というのは、過去から決して断絶してはならないというのが僕の意見です。

 その意味で言えば、百地さんの言っていることはピント外れです。それに、憲法に規定されているのだから天皇は政治的な発言はするなというのは、傲慢で悪意に満ちた凄く強い言葉だと思います。

菅野 しかも、百地章はそのような主張をする資格の絶対にない人間ですよ。彼は憲法解釈を最大限に拡大して、安保法制は合憲だと言い張っている憲法学者ですから。安保法制を合憲だと言っている人間が、今回の天皇陛下のおことばは違憲だと言っているわけですから、少なくともお前が言うなという話です。

横山 皇室のあり方を変えようという動きがあることは事実だと思います。ただ、百地さんはここで、天皇陛下が女系天皇や女性宮家創設を望まれたらという仮定のもとに発言しているわけですよね。そういう憶測に基づいて発言するというのは非常に問題だと思います。

菅野 そう思います。彼は表向きは憲法学者としての意見を示しているように見えて、実際には自分の言いたいことを言っているだけです。これは憲法学者の意見というよりも、運動家の意見ですよ。天皇陛下のおことばを政治利用しているのは一体どちらだということです。

横山 ちょっと異様ですね。

菅野 これは許しがたい議論です。徹底的に批判していきたいと思います。

 なお、12月11日に弊社より菅野完(著)『日本会議をめぐる四つの対話』を出版いたします。菅野氏と横山氏、『永続敗戦論』の著者である白井聡氏、元参議院自民党議員会長の村上正邦氏、ジャーナリストの魚住昭氏による四つの対談を収録しています。ご一読いただければ幸いです。

 また、12月9日には本書出版を記念して渋谷のLOFT9でイベントを開催いたします。詳細はLOFT9のHP(http://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft9/53782)をご覧ください。是非ともご参加いただければと思います。(YN)