だまされたものの責任

なぜTPPの強行採決を止められなかったのか

 昨日4日、衆議院TPP特別委員会で、TPP承認案と関連法案が強行採決されました。これを「賛成多数で可決」と言おうが、「採決強行」と言おうが、事の本質は変わりません。安倍総理が10月17日に「我が党は結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」と述べる中(10月17日付毎日新聞)、山本有二農林水産相が18日に「強行採決するかどうかは佐藤勉さんが決める」と述べたことなどが問題とされていましたが、彼らは結局のところ最初から強行採決するつもりだったのでしょう。

 今回の事態の責任は、一義的には政治家にあります。彼らがもっとしっかりしていれば、安易にTPP承認案を成立させることはなかったでしょう。また、TPPの問題点をきちんと伝えてこなかったメディアや学者たちにも責任があります。そして、彼らのような政治家を選び、そのようなメディア報道を鵜呑みにしてきた我々国民にも責任があります。かつて映画監督の伊丹万作が「だまされたものの責任」と言いましたが、TPPが将来わが国にいかなる弊害をもたらそうとも、その責任は我々自身が負わねばなりません。

 ここでは、弊誌増刊号「貧困・格差・TPP」に掲載した、京都精華大学専任講師の白井聡氏のインタビュー記事を紹介したいと思います。(YN)

騙された人間の責任

―― TPPによって国民生活は大打撃を受けると思います。その責任は第一義的には安倍政権にありますが、安倍政権を支持してきた国民にも責任はあります。

白井 このまま社会の劣化が止まらなければ、日本はそう遠からずに破局的な事態を迎えると思います。というか、福島の原発事故の被害者などは生活を破綻させられているのですから、すでに部分的に破局を迎えているのですが。

 その際、大部分の国民が「安倍政権に騙された」などと言うのでしょう。冗談ではありません。今は戦前と違い、教育勅語もなければ治安維持法もありません。特高警察もありません。教育を受ける期間も十分に長く、4割の人間が大学にまで行っています。TPP批判の本だってたくさん出版されています。そうした中で「騙された」などという言い訳は絶対に通りません。騙される人間にも責任はあるのです。

―― 同じことは安倍政権を支持している保守派にも言えます。彼らも安倍政権に騙され、安倍総理を保守派だと信じ込んでいます。

白井 安倍総理はナショナリストを気取っていますが、とてもナショナリストとは言えません。それは原発事故への対応を見れば明らかです。原発事故は国土に対する恐ろしい犯罪行為です。既に一度でも堪え難いことですが、同じ事故が繰り返されることなど決してあってはなりません。

 ところが、安倍政権は原発の再稼働を強行しました。この地震国で原発を続けるということは、同じような事故が再び起こってもいいと思っているということです。ここにはナショナリズムなど全くありません。あるのはニヒリズムだけです。これは安倍政権を支持している人たちにも言えることです。彼らは「保守」を口にしながら、実際は守るべきものなど何もないわけです。

―― TPPを打破していくために、我々は何を為すべきでしょうか。

白井 TPPは国際条約なので、日本だけでどうにかなる問題ではありません。もっとも、先程も述べたように、アメリカ国内でもTPPを批判する声が強くなっています。また、ニュージーランドでTPPの署名式が行われた際にも、式典会場の外では抗議運動が吹き荒れていました。このような反対運動と連帯していくことが重要になるでしょう。

 国際連帯と同時に、国内ではTPPに反対する勢力が権力を奪取することが課題となります。TPP反対勢力がもっとしっかりとした形になれば、安倍政権は必ず揺らぎます。そのために我々がどれだけ知恵を絞り体を張ることができるか、それが問われているのです。