TPP強行採決は日本の主体的判断か

なぜTPP強行採決を急いだのか

 4日に強行採決されたTPP承認案と関連法案について、なぜこれほど急ぐ必要があったのかという疑問の声があがっています。アメリカの次期大統領候補が共にTPPに否定的な態度をとっていることを踏まえれば、アメリカから圧力があったということは考えにくいと思います。

 よく言われている理由としては、アメリカ議会が批准手続きを進めやすいようにするためというものです。つまり、安倍政権としては、アメリカがTPPに後ろ向きになる中で、何としてもアメリカをTPPに引きずり込むために先手をうったということです。

 その意味では、これは日本の主体的な行動と言えるでしょう。実際、菅官房長官は強行採決の前日3日に、「保護主義に非常に危機感を持っている。TPPをなんとしても日本主導で仕上げていかないと世界が間違った方向に行ってしまう」と述べ、さらに「野党は『対米追従だ』とよく言うが、今回だけは、『(米国の)2人の大統領候補が反対しているのに、なんで急ぐんだ』と全く逆のことを言っている」と語っています(11月4日付読売新聞)。

 これはおそらく安倍政権の本音だと思います。しかし、そもそも日本がTPPに参加したのはアメリカの圧力があったからであり、主体的な選択だったとは言い切れません。そのため、今になって日本主導でTPPを仕上げると言われても、どうも納得のいかないところがあります。

「日本主導」とは何か

 ここに表れているのは、「何をもって主体的と言うか」という極めて難しい問題です。この点について、京都大学名誉教授の佐伯啓思氏は『従属国家論』(PHP研究所)の中で次のように述べています。

……「戦後レジーム」にあっては、全体の大きな枠組を決めているのはアメリカで、そのアメリカが決めた土俵の中に日本は配置されている。その枠組みの中で、自主的、主体的にやっている。いやそのつもりになっている。その際の、日本の意思決定を規定するものの考え方、価値観、それがまた、ほとんど無意識のうちにアメリカによって規定されているわけです。

 つまり、たとえ安倍政権が主体的に行動していると思っていたとしても、現実にはアメリカによって動かされているにすぎないということです。

 もっとも、いくら安倍政権がTPP強行採決を急ごうが、結局のところ全てはアメリカがどう判断するかに懸かっています。しかし、『フォーリン・アフェアーズ・リポート』最新号(2016年11月号)が「アメリカのTPP批准はほぼあり得ない」という記事を掲載しているように、アメリカからは否定的な意見ばかり聞こえてきます。この点については次回論じたいと思います。(YN)