政治家をやめる覚悟で北方領土交渉に挑め

外務省の怠慢

 ここに来て北方領土交渉の先行きが不透明になってきています。きっかけは、ウリュカエフ経済発展相が逮捕されたことです。ウリュカエフは世耕ロシア経済分野協力担当大臣のカウンターパートであり、安倍首相がプーチン大統領に提案した「8項目の経済協力プラン」を担当していた人物です。

 これは明らかに領土交渉を妨害するための動きです。プーチン政権内には北方領土を日本に返還することに反対している勢力がおり、彼らがウリュカエフ失脚を狙ったと見るべきでしょう。これにより、日本に領土を返還しようとしていたプーチン大統領も慎重な姿勢をとらなければならなくなったと思います。実際、ペルーで行われた日ロ首脳会談後、安倍首相が険しい顔をしていたことを考えれば、通訳のみを交えた両首脳のみの会談の間にプーチン大統領から何か厳しい要求があったのかもしれません。

 もっとも、今回の事態はロシアの内政問題なので、日本としては事前に何の手も打つことはできなかったと考えるのは誤りです。かつて日本でも森政権時代にあと一歩で北方領土を取り返すというところまで行きましたが、まさにその時に、領土交渉を望まない一部の外務官僚の画策によって鈴木宗男議員や佐藤優氏が国策捜査によって逮捕され、領土交渉が頓挫してしまうということがありました。外務省自身が鈴木議員らを排除したのだから、自らの経験を省みても、領土交渉が進めば領土返還に反対する勢力が妨害してくることくらいは予想できたはずです。そのための備えをしていなかったという意味で、外務省は怠慢だったと言わざるを得ません。

 もちろんこれは政治家の責任でもあります。岸田外務大臣の北方領土問題をめぐる国会答弁は混乱しており、領土問題の全体像を理解できているとは思えません。外務大臣が領土問題の本質を理解できていないにもかかわらず、なぜ交渉が動き始めたのか、この点については弊誌12月号で触れましたのでご一読いただければ幸いです。

リスクを負う覚悟

 いずれにせよ、既に起こってしまったことを変えることはできません。日本が厳しい状況に立たされていることは事実です。しかし、このタイミングを逃せば、北方領土は永久に日本に返ってこなくなります。今この問題を動かすためには、安倍首相がこれまで以上にリスクを負うしかありません。

 現在、日本国内では、ロシアが択捉島と国後島に地対艦ミサイルを配備したことについて不満の声が上がっています。このような状況下で安倍首相がさらにロシア側に譲歩すれば、安倍首相の支持基盤が揺らぐ恐れがあります。しかし、安倍首相がそのような危険を犯してでも領土交渉を前に進めようとすれば、プーチン大統領もそれに応え、領土交渉を進めようとするはずです。

 もちろん、それによって領土問題が100%解決するという保証はどこにもありません。さらにロシア側に譲歩したにもかかわらず領土交渉に失敗したとなれば、安倍首相は政治生命を失う危険性もあります。しかし、領土問題解決という大きな問題は、政治生命を失うくらいの覚悟を持たなければできません。安倍総理には政治家をやめる覚悟をもって重要な一歩を踏み出していただきたいと思います。(YN)

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