岸田政調会長は政治力を維持できるか

禅譲などあり得ない

 自民党総裁選に出馬すると目されていた岸田文雄政調会長が、総裁選への不出馬を表明しました。同じく総裁選に出馬すると言われている安倍首相や石破茂氏がまだ明確な態度を示していないため、最も早い態度表明ということになります。

 今回の決断は今後の岸田氏の政治活動に大きな影響を与えるはずです。もともと岸田氏が外務大臣を辞めて政調会長になったのは、閣僚のまま総裁選に出馬しないという暗黙のルールがあるからでしょう。この点、岸田氏は閣僚のまま出馬しようとしている野田聖子氏とは異なります。しかし、わざわざ外務大臣を辞めたにもかかわらず総裁選に出馬しないというなら、いったい何のために閣外に出たのでしょうか。

 岸田氏は安倍首相からの禅譲を狙っていると言われています。しかし、政治の世界に禅譲などあり得ません。また、禅譲を期待するような政治家が総理大臣になっても、激動する国際社会の中で立ち回ることは困難です。

 岸田氏の不出馬表明に対しては、岸田派内でも不満の声があがっていると言われています。これをきっかけに、岸田氏は政治力を失っていく可能性もあります。ここでは弊誌3月号に掲載した、政治評論家の中村慶一郎氏のインタビューを紹介します。

岸田氏は前尾繁三郎と同じ運命をたどるか

 次の総裁選に出ると言われている岸田文雄政調会長は、1月に麻生副総理と2人だけで会談し、自民党総裁選について相談しています。これは額賀派の中で動きがあったからだそうです。これは額賀派の中で額賀福志郎会長の退任を求める動きが出てきたからでしょう。新たな会長に竹下亘党総務会長が就任すると、彼らの票が石破茂氏に流れる可能性もある。岸田氏はそれを心配したのでしょう。

 岸田氏の動きを見ていると、かつて宏池会会長だった前尾繁三郎氏のことを思い出します。前尾氏は佐藤栄作首相の三選が懸かった総裁選に、三木武夫氏とともに出馬しました。しかし、いま一つ迫力を欠くものだから、三木氏に2位をとられてしまいます。そのため、前尾氏は方針を転換し、佐藤内閣への入閣に踏み切りました。これに反発した宏池会の大平正芳氏や田中六助氏ら派閥幹部が中心になり、前尾氏を追放したのです。岸田氏はいまのままでは前尾氏と同じ運命をたどってしまいますよ。

 岸田氏には、たとえ負けてもいいから覚悟を決めろと言いたい。『広島学』(新潮文庫)という本によると、広島人には矢でも鉄砲でもかかってこいという前向きな楽観的精神があると言います。亀井静香氏を見ているとまさにそうですね。岸田氏にも同じような精神を持ち、国民の立場から正々堂々と戦ってもらいたいと思います。