ナショナリズムを煽るエセ保守たち
弊社はこのたび、作家の適菜収氏と山崎行太郎氏の対談本『エセ保守が日本を滅ぼす』を出版いたしました。本書では安倍首相や産経新聞をはじめ、一般に「保守」と見られている政治家やメディア、知識人などを俎上に載せ、彼らが「エセ保守」にすぎないことを明らかにしています。
エセ保守の特徴は、愛国心やナショナリズムを煽るところにあります。これは三島由紀夫が最も批判したことでもあります。ここでは、弊誌2016年4月号に掲載した、適菜氏と山崎氏の対談を紹介したいと思います。
愛国心を嫌った三島由紀夫
山崎 最近では自称保守が愛国心やナショナリズムを煽ることが増えていますよね。しかし、適菜さんは『ミシマの警告』で、三島由紀夫が愛国心を嫌ったと書いています。これは鋭い視点だと思います。自称保守は戸惑うと思いますよ。
適菜 三島は愛国心について次のように言っています。「愛国心の『愛』の字が私はきらいである。自分がのがれようもなく国の内部にいて、国の一員であるにもかかわらず、その国というものを向う側に対象に置いて、わざわざそれを愛するというのが、わざとらしくてきらいである」
三島は左翼的な文脈で愛国心を批判したのではありません。国を愛することは当然なのだから、わざわざ愛国を唱える必要はないと言っている。要するに、愛国ビジネスをやっている連中を批判しているんですよ。
私はかつて「ルーティン保守」という言葉を作ったことがあります。朝日新聞、日教組、中国、韓国、北朝鮮を叩き、それで飯を食っている連中のことです。毎回同じような話で、オチも「わが国に危機が迫っている」といったもの。毎日ルーティンで仕事をするから、思考停止し、本質的な危機が見えなくなっている。彼らは「朝日新聞を廃刊しろ」などと言いますが、朝日がなくなって一番困るのは自分たちでしょう。小銭を稼ぐネタがなくなるわけですから。「愛国心」とか「目の前にある危機」と言うなら、その危機は今だったら安倍の暴走です。移民政策にしてもTPPにしても、わが国の形自体を変えてしまうようなことをやっているわけですから。
山崎 自称保守派は「愛国心を掲げるのが保守である」、「中国や韓国を批判するのが保守である」という観念で凝り固まってしまい、イデオロギー化してしまっていますよね。中国や韓国を批判しただけで保守になれるのなら、誰でも保守になれますよ。こんなものは保守でも何でもありません。
適菜 『ミシマの警告』にも書きましたが、反米、親米、嫌中、嫌韓、改憲派、軍国主義、復古、国家主義といったものは保守の定義とはなんの関係もありません。そこが誤解されているのでしょうね。三島は山本常朝の『葉隠』を解説し、イデオロギーが重んじられ、箸の上げ下ろしや盃の持ち方などの生活のしきたりが軽んじられる倒錯した時代に警鐘を鳴らしました。
安倍は政治家としての資質以前に、箸の上げ下ろし一つまともにできません。2013年に「和食・日本の食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録された際、内閣広報室が動画を作り、世界に発信したのですが、これが国辱ものです。安倍が和食の魅力について語った後、目の前にある御飯茶碗を左手だけで持ち上げ、箸を右手でつまんで宙でくるりと回し、御飯を口に入れ、さらに口からはみ出した米粒を箸で押し込んだ。わずか4秒の間に4つ以上のマナー違反を犯している。精神が幼児なんですよ。
61歳まで生きてきて、箸の持ち方を注意してもらえるような人間関係さえ築くことができなかったということです。