問題は読売新聞だけではない
読売新聞が前川喜平・前文部科学事務次官が在任中に「出会い系バー」に出入りしていたと報じたことについて、官邸からのリークではないかという疑いの声があがっています。読売新聞は6月3日付朝刊で東京本社社会部長の署名入りで反論を行いましたが、それに対して毎日新聞や東京新聞などが再反論を行うという状況になっています。
今回と似たようなことは過去にも起こっています。民進党(当時は民主党)の玉木雄一郎議員が西川公也農水大臣(当時)の政治資金問題を追及していたところ、産経新聞が玉木氏の信用を失墜させるような記事を掲載したのです。
ここでは、弊誌2015年4月号に掲載した、玉木議員のインタビューを紹介したいと思います。
「上の判断」とは一体誰の判断なのか
―― 玉木さんは西川公也農水大臣の政治資金問題について追及したあと、産経新聞から奇妙な取材報道の対象になりました。一連の経緯について伺えますか。
玉木 事の発端は、2月19日の衆議院予算委員会でした。そこで私は西川大臣の「政治とカネ」の疑惑をとりあげ、説明責任を果たすべきではないかと問い質しました。すると、その日の夜10時過ぎ、西川大臣は多数の記者に向って驚くべきコメントをしました。
〈今日私に質問した人の、でかい(記事)のが明日出るんだって? 誰だかわからねえから、調べて頂戴。俺は酔っ払っているから。玉木さんかどうか、わかんないよ。自民公明じゃないならあとは民主党か。こんなところにいたら抜かれてるぞ。諜報戦がものすごい。今日の中の誰だかわからないが、みんな(問題が)あるんだから。俺も聞いた話だから。確度はめちゃくちゃ高い。〉
これは複数の記者が確認している情報です。そして、その場に産経新聞の記者はいなかったそうです。しかし翌日の昼前と昼過ぎに、私の国会事務所にフジサンケイグループの産経新聞と夕刊フジから、ほぼ同じ文章で作られた取材依頼のFAXが相次いで送られてきました。そこには、私の収支報告書に記載されているパーティー券購入について「脱法的行為」の疑いがあるとしたうえで、〈この「脱法的行為」は、玉木先生が国会で追及した、西川公也農水相の「製糖業界からの脱法献金」と似た構図だと考えます。〉とありました。まるで「玉木も西川と同罪だ」というストーリーを用意しているかのような書き方です。
私は急遽、地元に帰る予定をキャンセルして、同日午後6時ごろに二紙同時に取材を受けました。私から疑問点について説明し、記者二人には違法性はないと納得してもらえました。ところが、産経の記者は「いや、違法ではないことは確認できましたが、記事にするかどうかは別問題で、上の判断になります」と言い残しました。
同日夜、夕刊フジの記者からは「社内で検討した結果、掲載は見送ります」という連絡がありました。タブロイド紙が掲載しないのだから、よもや大新聞の産経が掲載することはあるまいと思っていたところ、翌21日の午後9時ごろ、産経の記者から「上の判断で掲載することになりました」という電話が来ました。
しばらく「違法性はないと認めたじゃないか」「それは分かっているが、上にあげたら書くんだということになった」「だったら最低限『違法ではない』と明記してくれ」「それは書く」「しかし『違法ではない』と書くなら出す意味がないじゃないか」「いや、法の趣旨に反すると問題提起する」「それだったら私だけを取り上げるのではなく、与党の大臣を取り上げたり、少なくとも与野党の議員を並べて書くべきだろう」「いや、玉木さんのことを書く」と押し問答を繰り返しましたが、最終的には「上の判断です」の一点張りになりました。
私は最後に「分かった。じゃあこれだけ教えてくれ。この問題は社会部として前からやろうとしていたものなのか、それとも上から突如『これをやれ』と降ってきたものなのか、どっちだ」と念を押すと、「自分で追っていた案件ではない。個人的には掲載する必要はないと思う」という返事でした。
そして翌22日の産経朝刊の社会面には、大々的に〈西川農水相への寄付「脱法」追及 民主・玉木氏団体に280万円 同一代表者、8社から〉という見出しで記事が掲載され、ご丁寧にデジタル版にも掲載されました。「政治とカネ」を問題にしているにもかかわらず、文中に「違法性はない」と明記され、文意は「法の趣旨に反するのでは」という問いかけだけです。この程度のことをこんな大げさに取り上げた記事は前代未聞ではないでしょうか。しかし見出しは読者をミスリードさせる意図が感じられるセンセーショナルなもので、実際に誤解した読者から「お前も西川と同じじゃないか」「お前も辞めろ」など、有ること無いこと、数えきれない謂われなき非難が殺到しました。
今回の記事をゴリ押しした「上の判断」の「上」とは誰なのか。西川大臣の発言から推測すると、安倍政権と無関係とは言い切れないでしょう。