武貞秀士 平壌に政府連絡事務所を設置し、日朝交渉を急げ

「北朝鮮崩壊論」を検証すべきだ!

── これまで保守系メディアや多くの専門家が「北朝鮮は崩壊する」、「金正恩体制は不安定だ」と主張し続けてきました。これに対して武貞さんは、一貫して異論を唱えてきました。

武貞 今回の第7回朝鮮労働党大会は、メディアや専門家たちの北朝鮮分析を検証する非常にいい機会になったと思っています。

 これまでも金正恩体制の権力構造は安定していたのですが、今回の党大会で金正恩は朝鮮労働党の委員長に選出され、さらに偶像化を進めていくスタートラインに立ったのです。

 これまで、固定観念や希望的観測で、金正恩体制について様々なことが言われてきました。「激しい権力闘争が行われており、非常に不安定だ」という見方もありました。「側近を左遷するのは、権力抗争があるからだ」と決めつけてかかっていたのです。しかし、こうした見方が間違いであることが、今回はっきりしました。

 確かに金正恩は、軍人を目まぐるしく昇格させたり、降格させたりしています。それは、いくつかのグループが激しくせめぎ合っている結果ではなくて、金正恩という指導者が自分の思い通りに辣腕を振い、人事を一手に仕切っている結果なのです。

 処刑されたという説すら流れていた人民軍総参謀長の李永吉が、今回重要ポストに復帰しています。また、重要ポストから一旦左遷されていた労働党国際担当書記の崔竜海も復権しました。こうした目まぐるしい異動は、金正恩が権力を一手に握って動かしているからだと考えれば、何の矛盾もないのです。

 これまで、党最高指導部である政治局常務委員は、金正恩、最高人民会議常任委員長の金永南、朝鮮人民軍総政治局長の黄炳瑞の三人でした。長老の金永南は、外交プロトコールのキーパースン、金正恩の右腕黄炳瑞は、軍全体を取り仕切る役割を担っています。今回この三人に加えて、復権した崔竜海と朴奉珠首相が新たに政治局常務委員に選出され、五人体制となったのです。崔竜海は対外的な活動を主導する役割、朴奉珠は経済改革を進める役割をそれぞれ担っています。合理的で、非常にバランスのとれた人事だと評価すべきです。

 もちろん、分派活動が全くないわけではありません。その一つが、中国とのパイプを持っていた前国防委員会副委員長の張成沢の粛清です。ただし、これは激しい権力抗争の結果ではなく、逆に権力抗争も起こり得ないほど、金正恩の権力が強い結果なのです。

 36年ぶりに党大会が開催されたこと自体が、権力掌握とこの4年間の実績に、金正恩委員長が確固たる自信を持つに至ったことを示しています。

 金正恩体制は、核戦力増強と経済建設を同時に進める「並進路線」をとってきましたが、今回自らの核戦力を「東方の核大国」として誇示しました。北朝鮮は、アメリカに対する核抑止力、つまり米東海岸までも射程に入れられる核戦力を確保しつつあるのです。

 4月23日にはSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)発射実験を行っています。失敗だったという評価がありますが、弾頭の再突入技術の実験までしていることは否定できない。少なくとも、急速に技術向上が進んでいることは間違いありません。同時に、金正恩体制では経済成長率が4年間、プラスを記録しています。こうした核戦力、経済両面の自信が、党大会開催の背景にあるということです。

戦前の失敗を繰り返すな

── 武貞さんは最近も北朝鮮を訪問しましたが、社会の変化は起こっているのでしょうか。

武貞 平壌の雰囲気は変化しつつあります。以前は、黒のスーツに白いシャツといった地味な服装の人が多かったのですが、平壌市民の服装は非常にカラフルになっています。外国から来たマラソン選手たちとハイタッチをするなど、市民の行動にも大きな変化が見られます。

 いま北朝鮮は、観光立国を目指しています。彼らは「どのようにしたら観光客を誘致できるのか」、「何を改善すべきか」と真剣に考えていて、我々にも助言を求めてくるほどです。

 2014年には、観光特区として「元山・金剛山国際観光地帯」構想を発表し、馬息嶺スキー場を建設しました。最近、この馬息嶺でマラソン大会を開催することも決まりました。平壌では、金日成の生誕記念日に合わせて「万景台賞マラソン大会」が毎年開催されていますが、2014年からは外国人の参加も受け入れるようになっているのです。今年は1000人以上の海外ランナーが参加しました。

── 先日フジテレビの報道番組で、武貞さんが最近の北朝鮮の様子を説明するのを観ました。ところが、武貞さんが北朝鮮の変化を紹介したところ、産経新聞の古森義久さんが「ブラックジョークだ。北朝鮮のお先棒を担いでいる」などと批判していました。

武貞 国家が対外的なプロパガンダをするのは当然のことです。しかし、何も変わっていないと決めつけて、わずかな変化を無視してはいけないでしょう。先ほど述べた固定観念が、北朝鮮を客観的に分析することを邪魔しているのです。……

以下全文は本誌6月号をご覧ください。

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