「投資家主権国家化を招くTPPはグローバル企業による世界支配の一つの道具だ」と説く弁護士の岩月浩二氏は、特定秘密保護法の不自然な規定も、アメリカとグローバル企業の戦略からとらえるべきだと主張しています。この法律に隠された恐るべき意図とは何か、岩月氏に聞きました。
アメリカとグローバル企業のための法律だ
── 特定秘密保護法の本当の目的とは何か。
岩月 この法律の正体は、アメリカとグローバル企業による遠隔操作法だと考えています。アメリカとグローバル企業による日本国の乗っ取りです。彼らが日本の意思決定を効率的に行い、日本の資源から最大限の利益を収奪するために使うツールなのです。
本誌6月号でも語ったように、TPPの投資ルールとISD条項によって、日本に進出しているグローバル企業が日本の主権者になるような事態が起こります。「国民主権国家」から「投資家主権国家」に変わってしまうのです。そのように危険なTPPが、グローバル企業が日本を乗っ取るための一連の活動の中の一つに過ぎないことがわかり、そうした視点からこの法律を眺めたとき、その歪さの理由が良く見えてきました。
内田樹氏は、この法案の狙いについて、国民が知ることのできる情報を制限することによって、政策について国民が議論できる余地を減らし、政策決定をスピードアップする。つまり、トップダウンですべて決まる「株式会社」のモデルにならって政治システムを改組しようとする試みだと書いています。これは、グローバル企業にとって非常に好都合です。
すでにアメリカでは、一国の在り方に関わる重要事項を議会に関わらせずに、グローバル企業ないしその代理人に決めさせるようになっています。アメリカでは、TPP関連情報にアクセスできるのは六〇〇の企業ないしその代理人たちであって、議員にはアクセス権が基本的にないのです。
内田氏の国家株式会社論に示唆を得て、では誰が意思決定するのかについて考えてみました。形式的には、内閣・行政が意思決定しているように見えますが、私は意思決定するのはアメリカ政府だと考えています。総合的な政策決定を行うことができるのはアメリカ政府だからです。
── そう考える根拠は何ですか。
岩月 まず、この法案で不可解な点は、安全保障上の必要という建前と、法律の中身のギャップです。安全保障と無関係な省庁を含めて全省庁が特定秘密法の「行政機関」とされているのです。過去に「特別管理秘密」を指定したことがない消費者庁までもが含まれています。つまり、安全保障は建前であって、経済分野の情報が念頭に置かれているのです。
そもそもこの法律では、特定秘密をまとめて管理する機関が規定されていません。各省庁がばらばらに秘密を指定し、秘密は、ばらばらに存在し続ける。秘密を指定し、管理する中心が存在しないのです。
結果的に日本政府の機能を最小化することになります。国家としての統一的な意思決定ができないような国になるということです。国家の安全保障を謳いながら、なぜか、国家は秘密を管理する主体になっていない。このことが、秘密の中心は国内にはないという疑念を生み出します。ばらばらに管理される「特定秘密」と呼ばれる重要情報を集約できるのは、アメリカ政府だけです。
グローバル企業には情報が筒抜けになる
岩月 ここで、注目しなければならないのが、「適合事業者」です。法律の5条4項には、行政機関の長は、特段の必要があると認めたときは、適合事業者に特定秘密を保有させることができると謳われています。
── 不思議なことに、「適合事業者」は国会でも議論されていません。
岩月 「適合事業者」は「物件の製造又は役務の提供を業とする者で、特定秘密の保護のために必要な施設設備を設置していることその他政令で定める基準に適合するもの」と定めているに過ぎません。厳密に規定しようとすればいくらでも厳密に規定できるのに、法律は何も定めていないに等しいのです。
適合事業者は、特定秘密をさらに第三者に提供することができます。特定秘密の漏洩や流出があった場合でさえ、「適合事業者」に対する罰則はないのです。しかも、適合事業者には国籍規定が存在しない。つまり、わが国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがある情報であるにも拘わらず、海外事業者でもよいということなのです。
グローバル企業が適合事業者になれるということです。例えば、農水省の特定秘密は「適合事業者」であるモンサントに提供され、厚労省の特定秘密はノバルティス・ファーマ社に提供され、金融庁や財務省の特定秘密はモルガン・スタンレー証券やローンスター銀行に提供される。消費者庁の特定秘密はウォルマートに提供されるかもしれない。
グローバル経済ルールが好ましいと考えている、一握りのグローバル企業とその代理人であるロイヤーたちが、「適合事業者」として、国家の上部空間にあるセンターに座り、この国の意思決定を行う状況になる危険性があります。
つまり、個別分野の政策はアメリカのグローバル企業が利益最大化を目指して最適解を決定し、総合的な政策決定はアメリカ政府が行うことになるのではないか。まさに、この法律は、合法的傀儡政権を作るための法律なのではないか。
── 国民には情報に対するアクセスを禁止し、グローバル企業には筒抜けになる。
岩月 「適合事業者」自体に対しては厳しい制限をつけず、「適合事業者」に働く人々に対する適性評価と称する監視体制を敷こうとしています。しかも、「適合事業者」に対して、「特定秘密を保有する者の管理を害する行為」を行ったとする国民は犯罪行為を働いたものとされてしまいます。
「適合事業者」は、単にトラブルになっただけの国民でも、「管理を害する行為」を行ったとして、罪に問えるのです。「適合事業者」になれば、企業として、やり放題が許されるということです。