いかにして「安倍一強」を崩すか

自民党議員の勇気ある発言

 12月1日の参院TPP特別委員会で、自民党の山田俊男議員が安倍総理に対して、「規制改革推進会議のようなやり方は駄目だし、メンバーの在り方は見直して頂きたい」、「農業者やJA関係者は、もう総理からものすごくいじめられておるとの思いでいる」と述べ、政府の進める農協改革に苦言を呈しました(12月1日ANNニュース)。「安倍一強」と言われる政治状況の中でこのような発言をすることは、大変勇気のいることだと思います。

 自民党の中には安倍政権の政策に不満を持っている人たちがたくさんいます。もちろん公明党も表向きは連携していますが、安倍総理に不信感を抱いています。野党共闘も重要ですが、自民党の中で政府に不満を持っている議員たちや公明党がしっかりと発言できるような環境整備をすることも同じく重要だと思います。

 ここでは、弊誌増刊号「貧困・格差・TPP」に掲載した、山田俊男議員と評論家の佐高信氏の対談を紹介したいと思います。(YN)

農地改革の意義を否定する官僚たち

佐高 今回の対談のきっかけは、私が農協協会主催の講演会で講演した際に、会場で山田さんとお会いしたことです。私は「安倍政権を批判する」というテーマで講演したのですが、ああいうところに来るなんて凄いなと思いましたよ。

山田 あの会には全国から農協の組合長さんたちがお見えになりますから、必ず参加するようにしているんです。なかなか講演会までは参加できないのですが、その後のパーティーだけでも顔を出すようにしています。

 ただ、佐高さんの講演が終わった頃でしょうか、会場にいた友人から「今日は無理して来ない方がいいんじゃないか」と電話がありましたよ。来るなと言われても、その時はもう玄関まで来ていましたので。

佐高 それではのっけから申し訳ないけど、私はTPPはトータル・プア・プランの略だと言っているんです。小泉政権時代に規制改革ということが盛んに言われたけども、誰が困るかということは問題にされず、とにかく「改革万歳」だけで進んでいきましたよね。TPPも同じなんじゃないかと思うんですよ。

 例えば、安倍政権は農協改革と称して、TPP反対の牙城である農協を潰しにかかりました。これは日本が戦後に行った農地改革の否定ですよ。

 日本では戦前、地主が小作人に田んぼを貸して農作業をやらせ、そのアガリをせしめる寄生地主制が敷かれていました。それが戦後になって、それこそ山田さんの地元の富山出身の農林大臣・松村謙三が、自作農を創設するということで農地改革を断行しました。

 地主は大損したとか騒いで大変だったけど、小作人は自作農になって自分の田んぼに責任を持つようになった。やっぱり小作では働く気が起きないですからね。それで日本の生産力は高まったわけです。

 この自作農を支えてきたのが農協です。だから、農協を潰すということは、自作農から寄生地主制に戻すということですよ。安倍さんは「戦後レジームからの脱却」とか「日本を取り戻す」などと言っているけど、農業に関して言えば、これは「自作農からの脱却」、「寄生地主制を取り戻す」ということです。

山田 おっしゃるように、農地改革の意義をもう一度見直す必要がありますね。実は今度の農協改革に併せて、農地の集積を図るために農地中間管理事業を推進する法律を作ったんです。これについて議論している際、役所がペーパーを出してきたのですが、そこに「農地改革のマイナス面を克服する」と書いてあったんです。

 これはつまり、農地改革のせいで農地の集積が妨げられたということでしょ。私は「ちょっと待ってくれ」と言ったんです。農地改革の「マイナス面」と言うけども、農地改革によって小作人が自ら農地を持つようになり、汗水垂らして農業生産を高めたからこそ、わが国は戦後の食糧危機を克服できたんですよ。それがあったからこそ、高度経済成長も実現できたわけです。それを「マイナス面」と言うのはおかしいじゃないかと。

 それと、当時はソ連や中国、朝鮮半島も共産化していました。農業者の間にも不満が溜まっていましたから、あのままだと共産化していた可能性だってあるわけです。農地改革をしたからこそ、日本は食糧危機を克服し共産化を防ぐことができたんです。

佐高 私は『正言は反のごとし』(講談社文庫)という松村謙三の評伝を書いたことがあるんですが、松村さんも共産化を防ぐために農地改革をやらないといけないと言っていました。露骨な言い方をすれば、自民党が存続できたのは農地改革のおかげでしょう。それを否定するなんてのは、亀井静香の言葉を借りれば、親を足蹴にするようなもんですよ。役人なんかにそんなこと言わせちゃダメですよ。