マイケル・ピルズベリー氏の『China2049』(日経BP社)が話題を呼んでいます。ピルズベリー氏はかつてCIA(米中央情報局)や国防総省などでアメリカの対中政策に深く関わっていました。彼は当時は親中派と呼ばれるグループに属していましたが、本書では自らも携わった親中政策を批判し、中国の長期的戦略に警鐘を鳴らしています。
本書はアメリカでベストセラーになっており、とりわけワシントンの外交政策関係者たちの間で広く読まれていると言われています。それは一つには、本書が優れた分析や提言をしているからというよりも、かつて親中派だった人物が自己批判していることが物珍しいからだと思います。
実際、本書の内容は既存の中国批判本とそれほど大差はありません。ゴリゴリの親中派だったキッシンジャーですら中国を批判する本を出していることを踏まえれば、二番煎じとさえ言えます。日本でもスパイや外交関係者の暴露本がベストセラーになることがありますが、その傾向はアメリカでも同じだということでしょう。
また、本書がオバマ政権の対中政策やアメリカの世論を変化させたと考えるのであれば、それは誤りです。アメリカ国内に既に下地があったからこそ、つまり、アメリカ国内で既に反中的なムードが高まっていたからこそ、本書は広く受け入れられたのです。
ヘーゲルが述べているように、ミネルヴァの梟が飛び立った時は既に夕暮れ時です。日本の学者や実務家の中には本書を取り上げ、「アメリカの外交政策に大きな影響を与えた重要な本だ」と興奮気味に主張している人たちがいますが、残念ながらその点が理解できていないようです。(YN)