慰安婦合意は安倍総理の自業自得

 先日取材先に移動中、『「慰安婦」問題とは何だったのか』(中公新書)を読み終えました。著者は、「アジア女性基金」の理事を務めた大沼保昭氏です。

 本書は昨年末に行われた日韓合意を読み解く上で必読書であり、取り上げるべき点は多いのですが、ここでは一点だけ述べておきたいと思います。今回の日韓合意により、日本政府の予算から「全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」こととなりました。これは事実上の国家補償です。

 もっとも、これは真新しいことではなく、実はアジア女性基金においても事実上の国家補償が行われています。アジア女性基金の柱は次の四つからなります(デジタル記念館「慰安婦問題とアジア女性基金」より)。

(1) 元従軍慰安婦の方々への国民的な償いを行うための資金を民間から基金が募金する。
(2) 元従軍慰安婦の方々に対する医療、福祉などお役に立つような事業を行うものに対し、政府の資金等により基金が支援する。
(3) この事業を実施する折、政府は元従軍慰安婦の方々に、国としての率直な反省とお詫びの気持ちを表明する。
(4)また、政府は、過去の従軍慰安婦の歴史資料を整えて、歴史の教訓とする。

 この(2)について、大沼氏は《政府予算を使って行われる医療福祉支援は、実態は国家補償である》と述べています。

 また、アジア女性基金では、事務局の運営費などにも政府予算が使われていました。大沼氏は次のように述べています。

 基金事務局の人件費・運営費・広報費などは日本政府予算からまかなうという第一の柱は、多くの人が意識しないことだが、実は重要な点だった。日本赤十字社などの団体は各種の事件や事故の被害者の救済募金活動を行うが、わたしたちの寄付はその全額が被害者や被災者に届くわけではない。寄付の多くの部分は募金母体の人件費や運営費に使われ、実際に被害者に届くのは、寄付のごく一部にとどまる。こうした点を考えるなら、政府が運営費はすべて政府の負担とし、国民からの拠金はすべて元「慰安婦」の方々に届けられるという方針を打ち出したことは、高く評価すべきことだった。

 以上を踏まえると、今回の日韓合意の内容は河野談話やアジア女性基金と大差はないという解釈も成り立ちます。それでは何故日本が再びかつてと同じような事業に取り込むことになったかと言えば、安倍総理が河野談話や村山談話を見直すかのような発言を繰り返し、国際社会から強い反発を受けたからです。その意味で、今回の日韓合意は安倍総理の自業自得であったとも言えます。(YN)