籾井会長が辞任するだけでは問題は解決しない

 NHKの籾井勝人会長が、民主党と維新の党の統一会派による総務・地域主権合同部門会議における答弁で、聴覚障害者の蔑称である「つんぼ桟敷」と発言したことが問題となっています。籾井会長はすぐに謝罪しましたが、2月23日の衆院総務委員会の答弁でも同じ発言をして撤回しています(3月9日付朝日新聞)。

 ここからも籾井氏の人間性は明らかです。しかし問題は、籾井氏の人間性だけでなく、会長に権限が集中してしまうシステムにもあります。

 その点については、NHK経営委員を務めた上村達男氏の著書『NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか』(東洋経済新報社)を読むとよくわかります。上村氏はこの中で、NHK経営委員としての3年間の経験に基づき、NHKのガバナンス体制が抱える問題点や、それを改善のための提言などを記しています。

 上村氏は次のように述べています。《NHKの理事会は単なる経営事項の審議機関にすぎず決定権限を有していません。業務執行権限の一切は会長にあり、理屈上、理事会の審議結果に拘束されることもありません。では重要な業務執行の決定権限はどこにあるかというとそれは経営委員会にあります。しかし、経営委員一二名のうち常勤は一名であり、他は非常勤として別に仕事を持っています。就任前からNHKに詳しいという人はいません。》(本書271頁)

 それ故、よほど優れた人間が会長にならなければ、今回のような事態が容易に生じてしまうのです。籾井氏が辞任しただけでは問題は解決しません。籾井氏のような人間に権限が集中するような事態が二度と起こらないよう、一刻も早い制度改正が必要です。(YN)