奥山真司 日本は多極化に耐えられるか

(前略)

中国は海洋強国たり得ない

―― 中国に目を転じてみると、新たに総書記に選出された習近平は「海洋強国」建設を主張している。大陸国家である中国が海洋強国を掲げる理由は何か。

奥山 中国はこれまで多くの国境紛争を抱えていたが、その多くを解決させることができた。歴史を振り返ってみると、中国は内陸からの異民族の侵略により滅びることが多かったのだが、その危険性がこれほど小さくなったのは史上初めてではないか。これが、彼らの海洋進出の要因の一つだ。

 中国はこの海洋進出を正当化するために、自らがもともと海洋国家であったという神話を構築しようとしている。明の時代に大船団を組み、アフリカや東南アジアに遠征した鄭和を讃えるキャンペーンを展開しているのはそのためだ。

 とはいえ、彼らが本当に海洋強国になることができるかと言えば、その可能性は低い。いくら国境紛争の多くを解決したとは言え、中国は周辺諸国から警戒されていることもあり、軍事力の大半を海軍に注ぐというわけにはいかない。陸軍と海軍を両方充実させるというのは資金面から困難だろう。大陸国家であると同時に海洋国家であることはできないというのは、歴史の教えるところである。

 もっとも、中国のこれまでの周辺海域への進出が、この「海洋強国」という戦略に明確に基づいたものであるかどうかは、かなり疑わしい。オバマ政権のブレーンの一人、ロバート・カプランは、中国の対外政策を“capability-based approach”だと指摘している。簡単に言えば、「できるからとりあえずやってみる」ということだ。

 つまり、彼らは周辺諸国に圧力をかけることができるほどの軍事力や経済力を持っているから、実際に様々な行動を起こし、それに成功しているが、そこに確固たる世界観や戦略があるわけではない、ということだ。中国自身も自らが何をやっているのか理解できていないというのが実際のところだろう。

 それに加え、現場レベルでは統制がとれていないという現実もある。たとえば、中国海軍とは別に、海の法執行機関として「五龍」と呼ばれる組織がある。日本で言えば海上保安庁などに当たる組織だ。これは「海警」「海監」「海巡」「海関」「漁政」という5つの組織から成り立っているのだが、これらはバラバラに運営されており、北京政府自身も完全にはコントロールできていない。組織を統合して効率化を図ろうとする動きもあるが、それぞれが独自の権益を持っているため、統合作業は難航しているという。

 このように、五龍や人民解放軍の現場は、指導部の指示を無視して暴走する危険性をはらんでいる。このことは中国の動きを分析する上でも重要な点である。……

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