郷原信郎 国家戦略特区は利益相反の温床だ

「加計白紙解散」の観測

 安倍政権の支持率下落を受けて政界が大きく揺れています。一部では、安倍政権は加計学園の獣医学部新設を白紙撤回し、解散総選挙に打って出るのではないかという観測もあります。仮に解散総選挙が行われるとしても、それによって加計問題をうやむやにしてはなりません。マスコミや野党は今後も加計問題を徹底的に追及していくべきです。

 ここでは、弊誌9月号に掲載した、元東京地検特捜部検事の郷原信郎氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は9月号をご覧ください。

安倍首相が「一月二〇日」にこだわる理由

―― 安倍首相は閉会中審査で、加計学園の獣医学部新設計画について初めて知ったのは今年の1月20日だと強調しました。しかし、安倍首相は6月5日の参院決算委員会で「国家戦略特区に申請を出した段階で承知した」と述べていました。安倍首相が1月20日という日にちにこだわっているのは、自らの指示や意向があったことを隠すためだという可能性はありませんか。

郷原
 昨年9月9日に行われた国家戦略特区諮問会議での安倍首相の発言との関係に注目する必要があります。この諮問会議では、民間議員を代表して八田達夫氏が「獣医学部の新設は、人畜共通の病気が問題になっていることから見て極めて重要ですが、岩盤が立ちはだかっています」と述べています。これに対して、安倍首相はこの会議の最後に、「本日提案いただいた『残された岩盤規制』や、特区での成果の『全国展開』についても、実現に向けた検討を、これまで以上に加速的・集中的にお願いしたい」と発言しました。

 これを受けて、獣医学部の認可をテーマに開かれた9月16日の国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の冒頭で、内閣府地方創生推進事務局審議官である藤原豊氏が「先週金曜日に国家戦略特区の諮問会議が行われまして、まさに八田議員から民間議員ペーパーを御説明いただきましたが、その中で重点的に議論していく項目の1つとしてこの課題が挙がり、総理からもそういった提案課題について検討を深めようというお話もいただいております」と発言しています。つまり、藤原氏は、獣医学部新設に関する議論が9月9日の諮問会議での安倍首相の指示によるものだということを明言しているのです。

 そのため、安倍首相が昨年9月9日の時点で加計学園の特区申請を認識していたとすれば、安倍首相の指示によって加計学園に有利な展開になっていったことを事実上認めざるを得なくなるのです。

 常識的に考えれば、安倍首相は加計学園が構造改革特区で何度も獣医学部新設の申請をしていることを知っていたと言っているわけですから、国家戦略特区でも同様の申請が行われていたことを知らなかったとは考えられません。

 もし仮に1月20日に初めてその事実を知ったというのが本当だったとしても、どうやればそのことを国民に信じてもらえるか、よほど注意して答弁しなければならなかったはずです。しかし、安倍首相の発言を見る限り、周到な準備をしていたようには見えません。これでは国民の不信感が強くなるだけです。

―― 安倍首相は6月24日に行われた講演で、「今治市だけに限定する必要は全くない。地域に関係なく、2校でも3校でも、意欲ある所にはどんどん新設を認めていく」と発言したと報道されています。これも国民の不信感につながったと思います。

郷原 安倍首相は「獣医学部設置認可の問題に一切関わっていないし、具体的に関わる立場ではない」と述べてきましたが、この発言はそれを根底から覆すものです。これは、安倍首相がその気になれば、獣医学部の新設を認めることなど簡単なことであり、総理大臣として獣医学部認可の問題にいくらでも口を出せるということを認めたに等しいものです。「自爆行為」そのものと言わざるを得ません。……