山崎行太郎 我々の中にある沖縄差別を直視せよ

辺野古新基地建設を主導する官僚たち

―― 10月29日、安倍政権はついに辺野古新基地建設のための埋め立て本体工事に着手しました。今回の日本政府の行動をどのように見ていますか。

山崎 辺野古着工は安倍政権の決断によるものであり、その政治的責任は安倍総理にあります。しかし、それと同時に、安倍総理の背後にいる官僚の存在も忘れてはなりません。

 政治家というものは、程度の違いはあれ、国民の生命や財産などを守るために行動しています。辺野古新基地建設にしても、安倍総理はそれが沖縄の負担を軽減することにつながり、沖縄のためになると本気で思い込んでいる節があります。

 しかし、官僚たちはそうではありません。佐藤優氏が新著『官僚階級論』(にんげん出版)で論じているように、官僚は一つの階級を形成しており、国民から税金を搾取すると同時に、国家(官僚)の延命のために情け容赦なく国民を切り捨てます。国家(官僚)が国民の面倒を見てくれるなどというのは幻想に過ぎません。

 今回の辺野古新基地建設を主導しているのも、政治家ではなく、外務官僚や防衛官僚など「安保マフィア」と呼ばれる官僚たちだと思います。彼らにとっては、米軍基地を沖縄に固定化させることが、自らの階級を維持するためにどうしても必要なのでしょう。彼らが民主党政権時代に、死に物狂いで鳩山由紀夫氏や小沢一郎氏を潰しにかかったのもそのためです。

 一般的に、官僚たちは表舞台で行動することを避ける傾向にあります。安保マフィアたちの行動を正確に捉えることが困難なのはそのためです。その点、11月4日に辺野古の警備と称して警視庁機動隊が派遣されたことは注目に値します。警視庁機動隊もまた官僚階級の一翼を担う存在です。警視庁機動隊が出てきたということは、官僚が前面に出てきたことを意味します。つまり、ここに来て、官僚たちは既得権益を守るためになりふり構わず行動し始めたということです。

―― 安倍総理が沖縄のことを思って行動しているようには見えません。彼も官僚と同じように、既得権益を守るために沖縄を切り捨てようとしているのではないでしょうか。

山崎 国民のためを思って実施した政策が、結果的に国民を苦しめるだけになってしまうことはよくあります。安倍総理は新基地建設を強行していますが、それでも何とか怪我人を出さずに穏便に済ませたいと考えているのではないかと思います。

 もっとも、私は安倍総理を擁護するつもりはありません。安倍総理もこれが沖縄でなければ別のやり方をしたはずです。日本政府の中には間違いなく沖縄蔑視と沖縄差別が存在します。沖縄の人たちは、安倍政権の持つ差別意識をはっきりと感じ取っていると思います。

琉球処分もまた国防を理由に行われた

―― 沖縄ではしばしば、辺野古新基地建設は琉球処分に例えられます。ここからも、沖縄の人たちが新基地建設を、沖縄の民意を踏みにじる差別政策だと捉えていることがわかります。

山崎 新基地建設と琉球処分の共通点は、沖縄の民意を無視して一方的に差別政策を強行したことだけではありません。安倍政権は「新基地建設は日本の安全保障のために必要だ」と主張していますが、琉球処分もまた安全保障を理由に行われたのです。

 これについては、小熊英二氏が『〈日本人〉の境界』(新曜社)で詳しく論じています。当時の明治政府の中には琉球処分に反対する意見もありました。それは、琉球民族を自分たちと同じ日本人にしたくないという差別意識に加え、統治コストがかかり過ぎるという理由からでした。明治政府は近代化政策に着手したばかりで、琉球にまで手を回す財政的余裕がなかったのです。

 それにもかかわらず琉球処分が行われたのは、欧米に対して国防を強化する必要があると考えられたからです。ヨーロッパ列強がアジア諸国を次々と植民地化していく中で、明治政府は国境画定と防衛力強化に迫られていました。その際、欧米に比べて軍事力が圧倒的に劣る日本にとっては、できるだけ本国から遠くに国境線を引き、国防拠点を確保することが望ましいとされたのです。……

以下全文は本誌12月号をご覧ください。