稲村公望 郵政資産を外国に売り渡すな!

モルガン関係者曰く「とっとと郵政の株を売れ」

── 11月4日に、日本郵政と傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社が上場されます。

稲村 売り出し規模は3社合計で約1兆3800億円に上ります。問題は、何のための上場かがはっきりしないことです。

 ゆうちょの貯金残高は177兆円、かんぽの総資産は85兆8000億円。2社の上場が実現すれば、総額300兆円近い「郵政マネー」が、外資に略奪される危険性があるのです。

 持ち株会社の日本郵政の株式は、日本政府が最後まで3分の1強を保有することを法律で義務づけられていますが、ゆうちょとかんぽの株式は法の縛りから外れます。アメリカの投資ファンドなどが金融2社を手中に収めてしまう危険性があるのです。株式上場と外資への売却を即刻中止すべきです。

 アメリカは一貫して郵政マネーを狙ってきました。2004年10月に公表された「年次改革要望書」で、アメリカは日本郵政公社の民営化を要求し、「簡保を郵便事業から切り離して完全民営化し、全株を市場に売却せよ」と迫っています。小泉政権はこのアメリカの要求に沿って、郵政民営化を強行したのです。当初、日本郵政会社の株式は2010年から市場で売却されることになっていました。

 ちょうど10年前の2005年10月にニューヨークでシンポジウムに参加した時に、モルガンスタンレーの関係者から「あなたが郵政民営化に反対している稲村さんか。あなたが反対するから、私たちの利益が上がらないのだ。とっとと郵政の株を売れ」と悪態をつかれたことを鮮明に記憶しています。

 郵政株式売却を間一髪のところで阻止したのが、2009年の政権交代です。民主党と郵政民営化に反対した亀井静香氏率いる国民新党を中心とした連立政権の誕生です。同年12月、「日本郵政の株式と資産売却凍結法案」が成立し一旦は外資による郵政マネー略奪の危機は去りました。そして、市場原理主義的な経営手法を一掃すべく日本郵政の経営陣の一部更迭が行われましたが、第二次安倍政権発足によって、またぞろ市場原理主義の経営が復活してしまいました。

 2012年12月、日本郵政は斎藤次郎社長の後任に、財務省出身の副社長を昇格させました。ところが、安倍政権の官房長官は新社長に退任を迫り、2013年6月に後任の社長に元東芝会長の西室泰三氏が就任しました。西室氏は就任早々にアフラックとの提携拡大を進めました。アフラック日本の前社長が東京証券取引所の社外重役に就任していることは公知の事実です。

 ところで、東西冷戦時代の1987年に「東芝機械ココム違反事件」が起こりました。東芝は米国議会による制裁内容を和らげるための、空前の規模のロビー活動を展開したとされています。西室氏は1992年から東芝アメリカ社副会長を務めてきた人物で、ロビー活動を通じて米政財界中枢に人脈を築いたと言われており、実際日米財界人会議議長などを務めました。

 今年夏に東芝の粉飾決算が表に出ましたが、粉飾決算を行っていた時期は、西室氏が東京証券取引所会長を務めていた時期とも重なっています。郵政民営化委員会の委員長も務めていたので、郵政持ち株会社の社長を務めているのは、明白な利益相反です。

 西室氏は中国政府系ファンドの有識者会議のメンバーにも選任されていたので、戦後七〇年談話の有識者懇談会座長を務めたことは茶番でしかありません。

── 日本郵便は2月オーストラリアの物流大手トール社を6200億で買収することを決めました。

稲村 この買収は、49%のプレミアムをつけた「大盤振る舞い」だったと報じられています。まさに上場に備えた「お化粧」との見方もあります。買収に際しては、両者の関係を情報開示する必要があったのではないでしょうか。さらに問題があります。トール社は東芝からシステムを納入していたという情報があるのです。事実なら、これも利益相反を疑われても仕方がありません。東芝によるウエスティングハウス社の買収と似ているところも気になります。……

以下全文は、本誌11月号をご覧ください。