中島岳志 若者は本当に「保守」化しているのか

若年層が安倍内閣を支持する理由

 FNNが1月21日までの2日間に行った世論調査によると、安倍内閣を「支持する」と答えた人の割合は、「男性の10代と20代」に限ると71・8%、「男性30代」では69・9%、「女性の10代と20代」では59・7%と、男女ともに若い世代ほど安倍内閣を支持しているという結果になりました(1月22日 FNN)。

 こうしたことから、最近では若年層が「保守」化していると言われることがあります。しかし、その認識は正しいとは言えません。ここでは、弊誌2月号に掲載した、東京工業大学の中島岳志氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は2月号をご覧ください。

輝かしい未来を描けない若年層

―― 最近、若者が「保守」化していると言われています。安倍内閣に対する各世代の支持率を見ても、若年層の支持率が他の世代よりも高いという結果になっています。しかし、中島さんはこの見方に異議を唱えています。

中島 日本では昔から幸福度に関する調査が行われています。この統計データを見ると、かつては「あなたは幸福ですか」という質問に対して、若い世代は「幸福ではない」と答える人が多く、世代が上がるほど「幸福です」と答える人が増える傾向にありました。これに対して、近年は、若い世代で「自分は幸福だ」と答える人が多くなっています。

 しかし、「自分は幸福だ」と答えた人たちが、実際に幸福であるとは限りません。社会学的に考えると、人が幸福を感じるのは、未来を失っているときです。高齢者の中に「自分は幸福だ」と答える人が多いのは、あまり先が残されていないからです。これ以上未来が良くなるというイマジネーションを持つことが難しいからこそ、いまを抱きしめ、いまが幸せだと思い込もうとするのです。

 最近の若者たちが幸福だと感じるのも、輝かしい未来を描けなくなっているからだと思います。そのため、スマートフォンを使ったり、ゲームで遊んだりできるいまの生活が幸せだと思い込もうとする。いまが充実していると思わないとやっていけないのです。

 いまが幸福だと考えている人たちは、いまのような状態がずっと続けばいいと考えます。政治的には、安倍内閣のままでいいということになる。若者たちが「保守」化しているように見えるのは、そのためでしょう。

 もう一つ指摘すると、最近の若者たちは、民主党政権に対してマイナスのイメージを持っています。だから、安倍内閣という船がずぶずぶと沈みつつあったとしても、飛び移るべき別の船をイメージできず、その船にしがみつくということになってしまう。そうした態度が「保守化」や「右傾化」と言われているのだと思います。

―― 『中央公論』(2017年10月号)の「世論調査にみる世代間断絶」では、若年層が自民党を「保守」と見なさず、むしろ共産党を「保守」と見なしているとされています。とすると、安倍内閣を支持する若年層の中には、いまが幸せだと思い込んでいる人と同時に、自民党に改革を求めている人もいるのではないでしょうか。

中島 そうですね。若者たちにとって安倍内閣の進める規制緩和や構造改革は、既得権益者から利益を剥奪しているように見えるのだと思います。それに対して、共産党は農業や村落共同体をはじめ、戦後の日本で既得権益と見なされてきたものを守ろうとしています。そのため、共産党こそ「保守」的に見えるのでしょう。……