菅沼光弘 北朝鮮ミサイル発射 戦略なき日本の悲劇

日米ミサイル防衛の標的は中国だ

―― 北朝鮮の「人工衛星」発射、日本国内報道では長距離弾道ミサイル発射をめぐって、政府はPAC3を配備するなど、対応に追われた。

菅沼 別の言い方をすると、北朝鮮のミサイル発射を契機として、日米ミサイル防衛の合同演習が行われているということだ。

 状況を整理すると、北朝鮮側は「人工衛星を迎撃すれば、宣戦布告とみなす」と宣言している。すなわち、日本を軍事攻撃するとしているのだから、打ち上げられた「人工衛星」が日本国土に着弾する軌道を描かない限り、これをPAC3もしくはイージス艦搭載の迎撃ミサイル(SM3)で迎撃することはありえない。

 「人工衛星」が不具合で本体や部品が落下するのに備えてPAC3などを配備するのだとされている。しかし、これは極めてナンセンスだ。打ち上げられたミサイルでさえ、そのスピード、軌道を瞬時に計算して迎撃するのはきわめて難しい。まして、重量もスピードも軌道も不明確な落下物を空中で打ち落とすことは、まったく不可能といっていい。

 それにもかかわらず、国土防衛という大義名分の下に迎撃体制を整えているのは、これを日米ミサイル防衛体制強化の好機ととらえているからだ。これは、東アジアの安全保障、具体的には中国のミサイルに対してどのように防衛していくかということが念頭にある。

 すなわち、北朝鮮の「人工衛星」問題は、日米にとっては対中牽制を意味するミサイル防衛システムの絶好の予行演習となっている。それに際しては、実際に「人工衛星」を打ち落とす必要はない。PAC3などの運営のためには、アメリカの早期警戒衛星からの情報、そして米軍と防衛省の緊密な連携が必要となる。この予行演習の場として北の「人工衛星」はうってつけなのだ。すでに航空自衛隊の航空総隊司令部は米軍横田基地の中に組み込まれ、米軍との共同運用体制が整っている。

―― 実際には日本政府側の「J-ALERT」(全国瞬時警報システム)は機能しなかった。

菅沼 沖縄県宮古島の基地では、北朝鮮の発射直後に信号弾が打ち上げられ、石垣島でも午前7時50分には自衛隊から石垣市長へ連絡が入っている。現場レベルでは予行演習はうまくいっていたということだ。「J-ALERT」は政府の危機管理対応の問題で、今回の演習によって、政府こそが問題だという点が明らかになったのだから、価値はあったといえる。

米朝は暗黙のうちに「人工衛星」発射に合意していた

―― アメリカは、北の「人工衛星」発射そのものに反対しているわけではない。

菅沼 米朝は野合とまでは言わないが、暗黙裡のうちに、互いに了解を得ていると見るのが妥当だ。

 アメリカは本年2月29日に第三回米朝高位級会談を行い、合意に達している。そこではアメリカが食糧援助を行う代わりに、北朝鮮は核実験、長距離ミサイルの発射、ウラン濃縮活動を一時停止することが記されている。

 ところが、この合意後の3月16日に北朝鮮は「人工衛星」の発射を発表した。北朝鮮は、3月の米朝会談で、「人工衛星」発射は長距離ミサイル発射には含まれない、と終始一貫明らかにしてきたと主張している。

 アメリカはさきの玄葉外相とクリントン国務長官との会談において懸念を表明したが、本気で怒っているのならば米朝合意の破棄、制裁に踏み切るはずだ。実際、そうなっていないということは、これは日本へ配慮して儀礼的に怒りを表明したものに過ぎないということで、北朝鮮の「人工衛星」発射を事実上許容しているということだ。

 国務省で対北外交を担当してきたエバンス・リビア元国務次官補代理が明らかにしているところによると、すでに昨年12月の段階で、北朝鮮は人工衛星発射を「主権国家として固有の権利」として、近い将来の発射を示唆していたという。

 これが事実ならば、2月の米朝合意の段階で、アメリカは北朝鮮による「人工衛星」発射があることを承知していたことになる。……

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