菅沼光弘 米国は本当に日本を守るのか 

北朝鮮は水爆獲得へ

―― 北朝鮮が第3回目の核実験を行った。事前に報道されていた「高度なレベルの」核実験が実際に行われたことによって、東アジアの国際情勢はどのように変化するのか。

菅沼 まず、北朝鮮側の内在的論理を把握する必要がある。今年は朝鮮戦争の休戦から60年に当たる年だ。言い方を変えれば、この60年間、北朝鮮は常に臨戦体制の緊張下にあった。国連軍の中心であるアメリカがその気になれば、国連決議を経ずとも、休戦協定違反として、どんな口実でも戦争が再開される危険があった。北朝鮮が国家として安定的に存続するためには、アメリカとの間で平和協定を締結して、まずこの戦争状態を終結させる必要がある。北朝鮮は、何よりもこの60周年という節目に、それを達成したいのだ。

―― しかし核実験を行えば緊張はより高まるのではないか。

菅沼 北朝鮮はこれまで何度もアメリカとの対話を求めてきていたが、結局、意図する成果は得られなかった。アメリカは、六者会談という枠組みで、北朝鮮との対応を特に中国に任せておくだけだった。このため、北朝鮮側は一大決心をして核ミサイルの保有に踏み切った。北朝鮮が米大陸までとどく核ミサイルを実際に保有すれば、アメリカといえども交渉に応じざるをえないと踏んだのだ。

 今回の第三回目の核実験で、東アジア情勢は激変した。もはや六者会談は有名無実化し、アメリカ主導の核拡散防止条約(NPT)体制は崩壊に向かっており、アメリカも米朝交渉に応じざるをえなくなった。

 今回の実験内容は、アメリカにさらなる譲歩を迫るものと見られている。1月24日、北朝鮮国防委員会は米国を狙った「高度なレベル」の核実験を行うと声明しているが、韓国合同参謀本部の鄭承兆議長は、これは従来のプルトニウム型ではなく「ブースト型分裂爆弾(強化原爆)」の実験ではないかと推測している。これは水素爆弾を製造する核融合技術と原爆技術を結合するものである。

 議長は「これは完全な水素爆弾の前段階で、ウラン弾やプルトニウム弾よりも威力が増強されたものである」と説明している。これによって北朝鮮は核弾頭の小型化も可能になる。核弾頭の重量を1トン以下にまで小型化できれば、北朝鮮がすでに保有しているスカッドミサイルやノドンミサイルへの搭載も可能になる。わが国や韓国にとっても最大の脅威になる。

 この効果はてきめんで、すでに1月27日、「スター・アンド・ストライプス」紙によると、在韓米軍サーマン司令官は「今、在韓米軍は最高に脆弱な状態にある」と言っており、キャンベル国務次官補も、この核実験によって「深刻な事態がもたらされる」と強く懸念している。ヘーゲル次期国防長官は議会で「北朝鮮は事実上の核保有国」と認める発言すらしており、今後、米朝会談は朝鮮半島の非核化ということから核保有国同士の対話という、新しい位相へ移ることになることを示唆している。

 一方、中国は今日のように米国との対立が深まるほど、北朝鮮の戦略的な価値を重視せざるを得ない。

 北朝鮮は緻密に東アジア情勢を読んだ上で、核実験というカードを利用しているのだ。……

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