イスラム国事件で顕在化した政権批判の自粛
── イスラム国事件をめぐって政府批判を自粛するムードが日本社会を覆いました。そうした中で、2月9日に「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」が発表され、小林先生も記者会見に参加しました。
小林 安倍総理が1月17日にエジプトで演説し、「ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」と述べた結果、イスラム国は「待ってました」とばかりに、同額の身代金を支払わなければ、二人の日本人人質を殺害すると要求、結局政府は何もできないまま二人は殺害されてしまいました。
こうした演説をした安倍さんには配慮が足りなかったのではないか、と多くの人が感じたに違いありません。少なくとも、安倍演説が事件の引き金になったのではないか、と。
ところが、政権を批判できない空気になっていました。政権批判を口にした途端に、「黙れ、非国民。敵を利するのか」というような話になってしまう、そんな異常な状況でした。政権に批判的な言論に対して極めてヒステリックな反応が起こっていたのです。
1月23日放映の「報道ステーション」(テレビ朝日)での元経産官僚の古賀茂明さんの発言も知りました。彼は、安倍政権の対応によって「イスラム国側から、日本がアメリカやイギリスと一緒なんだと思われてしまいつつある」と批判した上で、「私だったら、『I am not Abe』というプラカードを掲げて、日本人は違いますよということをしっかり言っていく」という趣旨の発言をしたのです。その直後、官邸の秘書官筋からテレビ朝日の上層部に抗議の電話が入り、大騒ぎになったとも伝えられています。
このとき、古賀さんと私の共通の友人であるジャーナリストの今井一さんから電話をもらいました。そこで、テレビ朝日上層部が官邸から圧力をかけられ、報道ステーションの女性チーフ・プロデューサーも古賀さんも外されることになると伝えられていることを知りました。これは危険な状況だと強く感じ、「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」に賛同し、記者会見にも出席したのです。
── 会見には、小林先生のほか、今井さんや古賀さんが参加しました。
小林 ただ、声明に賛同しておきながら、いざ記者会見をやるとなると尻込みする人が多かったのは残念です。やはり、矢面に立つのはいやだというムードが強かったのでしょう。
政府批判の「自粛」という空気を打ち破って、批判すべきことは批判できる状況にしていかなければなりません。憲法21条には「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定められています。「非常時」だから政権批判を自粛すべきだという理屈を認めたら、原発事故や大震災など、あらゆる「非常時」に政権批判をすることができなくなってしまいます。本来、「非常時」にこそ、問題の解決のために多様な発想や見方が必要になるのです。
── 『産経新聞』(2月4日付朝刊)は、「『イスラム国寄り』発言 野党・元官僚続々」という見出しのもと、政府批判をした人物の名前と発言が並んだリストを掲載しました。そこでは、古賀さんのほか、柳澤協二さん、孫崎享さん、野党議員らが挙げられました。
小林 産経は「イスラム国寄り」というレッテルを張って、彼らを批判しようとしたのですが、リストに挙げられた言論人は立派です。古賀さん、柳澤さん、孫崎さんはいずれも東大法学部出身で官僚組織に上級職で入り活躍した人です。大人しくしていれば、生涯役所が生活の面倒を見てくれる。その組織と決別し、しかも権力批判をするには大きなエネルギーが必要なはずです。……
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