亀井静香 安倍総理を包囲する新自由主義者たち

安倍政権の3年間を総括する

―― 安倍政権が成立してから3年が経とうとしています。安倍政権の3年間をどのように総括されていますか。

亀井 総理の基本的な考え方は、日本の伝統や文化を守り、日本を誇りある国にしたいということなんだけど、総理の志とは別の方向に行っちゃっているね。第一次安倍内閣の時代に小泉政権から引き継いだ新自由主義者たちが、今も総理の周りを取り囲んでいる。総理は企業さえ儲かればいいなんて考えていないけど、現実には非正規雇用が増え、格差がどんどん拡大してしまっている。

 外交についても、アメリカしか向いていない外務省がどんどん提言し、方向性を決めている。私はよく知っているけど、総理の基本的な立場は対等な日米関係を目指すというものですよ。ところが実際にはアメリカへ屈従してしまっている。かつては外務省ではチャイナスクールが力を持っていたんだけど、今では力がなくなってしまった。きちんとしたスタンスを持たずに対中国外交をやっているから、中国との関係も上手くいっていない。

 もし総理が自分の理念をしっかりと政策化できるようなブレーンを揃えていれば、今のようにはならなかったと思いますよ。今、総理を支えている衛藤晟一だとか河村建夫だとか古屋圭司だとかはね、優秀だけども政策には弱いんですよ。だから、総理の周りにいる新自由主義者たちや役所の連中が、彼ら自身が進めたい政策を「官邸発」という形でどんどん進めてしまっている。官邸発と言えば、あたかも総理が発信しているみたいに見えますから、彼らにとって都合が良いんですよ。

 本来なら、総理は「それは俺の思いとは違う」、「俺の哲学でやる」と言わなきゃダメです。もちろん、これは相当力のいることです。側近たちが持ってきた政策に対して「これはダメだ」と言うからには、それに代わる政策を自分で出さなきゃいかんわけですから。だけど、総理にはちゃんとしたブレーンがいないから、それができない。結局、取り巻き連中の提言に乗っかっていかざるを得なくなり、総理の本心とは違う政策が行われている。そういう状況がずっと続いていますね。

なぜ南京大虐殺文書がユネスコに登録されたのか

―― 安倍政権の個別の政策について伺いたいと思います。先日、安保関連法案が成立しました。この法案についてどのように見ていますか。

亀井 さっきも言ったけど、総理の基本的な立場は日米関係を対等にするというものです。その立場からすれば、日米地位協定も含め日米安保条約を再改定する中で、アメリカの軍事行動に対してどのような協力ができるかを検討していくということになるはずです。

 ところが今回、日米安保条約の見直しは何一つ行われませんでした。これではアメリカにとって都合の良い政策を作らされたというだけですよ。アメリカは世界の警察官として外国で戦争しているけど、イラクからアフガンから全部失敗しているでしょ。そういう状況だから、彼らとしては一緒に戦ってくれる「手下」がほしかったんですよ。

 それから、安保法制の審議の過程で、中国を仮想敵国のように扱ってしまいましたね。これは本当に危なっかしいことだし、間違ったことです。そんなことをしているから、中国がユネスコの世界記憶遺産に「南京大虐殺」に関する文書を申請することを止められなかったんですよ。

 日本が中国に対してきちんとした対応をしていれば、今回の事態は食い止められたはずです。きちんとした対応とは、中国に対して認めるべきことは認め、認めるべきでないことは認めないということです。認めるべきこととは、日本が中国を侵略したということです。日本が中国に多大な犠牲と迷惑を与えたことは事実なんだから、それはちゃんと認めて深く反省しないといけない。これは朝鮮半島についても同じことです。

 だけど、日本は南京で大虐殺などはやっていない。戦争法に違反する絶対にやってはならない行為が部分的にはあったかもしれないけども、大虐殺なんてことは事実としてやっていない。そのことはちゃんと主張するべきです。

 ただ、今のようにアメリカに従属しているようでは、中国とは外交交渉できないだろうね。中国からすれば、いくら日本から抗議されても、日本と交渉する必要性は感じませんよ。日本ではなくアメリカと交渉しておけばいいということになりますから。中国としっかりとした外交交渉をするためにも、アメリカとの関係をちゃんと対等にする必要があります。……

以下全文は、本誌11月号をご覧ください。