春名幹男 アメリカの宿痾 ユダヤロビーと軍産複合体

エルサレム首都認定の背景

 トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都に認定したことにより、中東情勢は緊迫化しつつあります。今回のトランプの決断は、支持率が低下する中、親イスラエル勢力をはじめトランプ支持者たちを引き続きしっかりとつかんでおきたいという狙いがあったと思われます。

 ここでは、ジャーナリストの春名幹男氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は2018年1月号をご覧ください。

大使館移転を働きかけたユダヤ人

―― アメリカではかねてより親イスラエル勢力が大きな力を持ってきました。トランプ政権も親イスラエル勢力に支えられており、中東政策の背後にもユダヤロビーの動きが見え隠れします。

春名 アメリカ国内にいるユダヤ人は、他と比べて特に多いというわけではありません。ユダヤ系アメリカ人がざっと見て600万人いるのに対して、中国系は500万人、インド系も400万人近く、アラブ系も400万人弱います。また、ユダヤ人は内部対立も激しく、決して一枚岩ではありません。ユダヤ人の7割が民主党支持者だと言われていますが、保守系の人もいます。信仰においても、改革派と保守派、正統派の三種類にわかれているそうです。

 とはいえ、政治に対する影響力が大きいことは間違いありません。AIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)という強力なロビー団体が様々な活動を行っていますし、アメリカ議会にもユダヤ系の議員がかなりいます。

 また、ホワイトハウスでもユダヤ系の人たちが重要なポストを占めています。経済担当大統領補佐官を務めるコーンや、財務長官のムニューシンもそうです。彼らはともにゴールドマン・サックス出身です。トランプの娘婿であるクシュナーはユダヤ系正統派です。

 トランプ大統領がイスラエルの首都をエルサレムと認め、アメリカの在イスラエル大使館をエルサレムへと移転すると表明した背景にも、親イスラエル勢力の動きがあったと言われています。一番影響力を行使したのは、トランプ選挙で20億円以上献金したラスベガスのカジノ王であるシェルドン・アデルソンだと思います。アデルソンはシオニスト組織に友人がおり、大統領選挙の際にトランプ陣営に多額の選挙資金を提供しています。

 もともとエルサレムへの大使館移転は、1995年にクリントン政権下で法律によって決められたことです。しかし、半年ごとに履行状況を確認することになっていたので、歴代大統領は半年ごとに移転の延期を決定してきました。トランプも2017年6月に移転を見送っています。このとき、アデルソンがトランプに相当厳しく要求したようです。

 そのため、トランプとしては、親イスラエル勢力を味方につけておくために大使館を移転しなければならないと考えたのでしょう。トランプの支持率は35%ほどですが、意外に底堅いのは、公約を実行し続けているからです。その意味で、今回の大使館移転は支持勢力へのテコ入れのためだったと言えます。

―― エルサレムへの大使館移転は、アメリカのユダヤ人の間ではどのように受け止められているのでしょうか。

春名 ユダヤ人全員が大使館移転に賛成しているというわけではありません。ユダヤ教の聖職者の中には、ユダヤ教は他の宗教と共生しなければならないとして、エルサレムを共有財産にしようと考えている人もいます。しかし、たとえば民主党の上院のトップであるチャールズ・シューマー上院議員は、トランプに対してエルサレム移転を主張してきました。彼はリベラル派の議員です。リベラル派の中にも大使館移転に賛成している人はいるということです。……