奥山俊宏 「核の傘」の見返りは何か

なぜ米国の武器を買うのか

 安倍首相は米国からの武器購入を通じて米国の雇用創出に貢献する考えを示しました。日本はこれまでも米国経済のために米国から武器を購入してきましたが、それらの交渉は全て水面下で行われており、安倍首相のように公の場でこのような発言をするのは異例のことです。

 米国から武器を買うということは、軍事的に米国の従属下に置かれるということです。安倍首相がかつて唱えていた「戦後レジームからの脱却」は一体どこに行ってしまったのか、疑問に思わざるを得ません。

 ここでは、弊誌4月号に掲載した、朝日新聞編集委員の奥山俊宏氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は4月号をご覧ください。

安倍首相の異例の発言

── 2月15日の参院本会議で、安倍首相は米国からの武器購入を通じて米国の雇用創出に貢献する考えを示しました。日本の首相が公の場でこのような発言をしたのは初めてのことだと思います。

 米国からの武器購入と言えば、ロッキード社の対潜哨戒機P3Cや旅客機トライスターをめぐって問題となったロッキード事件のことが思い出されます。奥山さんは『秘密解除 ロッキード事件』(岩波書店)でロッキード事件の真相を追求していますが、当時の政治状況と比較して似ている点はありますか。

奥山 ロッキード事件やダグラス・グラマン事件が発覚した1970年代の日米関係について、私は、当時の米国側の公文書や日本側の外交史料を調べ、取材し、2010年に朝日新聞の紙面に記事を出し、それをもとに本にまとめて、昨夏に出版しました。

 日米の当時の公文書を見ると、日本政府が米国製兵器を購入することは、日米の貿易不均衡を是正するのに役立ち、米国の雇用に良い影響を与えるといった話がたくさん出てきます。日本の防衛力を充実させるため、ということよりも、むしろ、日本から米国へのお金の支払いをどうやって増やすか、そのためには米国製の兵器をどうやって日本の自衛隊に買わせるか、ということに政治指導者の関心の多くが向けられていたと言って過言ではないほどです。

 例えば、1972年8月19日に、軽井沢の万平ホテルで田中角栄首相とキッシンジャー大統領補佐官の会談が行われます。これは同年8月31日、9月1日に行われる田中首相とニクソン大統領による初の首脳会談の露払いのための会談ですが、この会談で、田中首相はキッシンジャー補佐官に対して、当時問題となっていた対米貿易黒字を減らすための方策に関する議論の中で、「兵器の購入を増やすことができるか検討するようにと当局者に指示している」と述べています。

 首脳会談の本番では、ニクソン大統領が「日本政府が現在の貿易不均衡を減らそうとしているのは米国の世論にも議会にも好影響を与えるだろう」と言い、これに田中首相が「是正に努める」と応え、「この問題は自分で検討して結論を出していく」と約束しています。関連の会合で米国務次官補が日本の外務審議官に「米日の国際収支のバランスを向上させられるプロジェクト」としてグラマンのE2早期警戒機の購入を働きかけています。

 このように、ニクソン政権と日本政府の間では、貿易摩擦を和らげるためという目的で、日本による米国製兵器の購入がひんぱんに議論されていましたが、これらは、25年以上たって秘密指定を解除された公文書によって最近になって分かってきたことです。首脳会談にあわせて外務審議官と米国の駐日大使が日本の「緊急輸入」に関して合意事項を発表していますが、その中に「日本の民間航空会社」による米国製の「民間航空機」の購入の計画は盛り込まれていますが、軍用機購入は含まれていません。それは、意図的に外したからだと思います。米国の公文書を見ると、「防衛予算は(日本では)微妙な政治問題であり、我々がそれを増やすように日本に圧力をかけていると見られるべきではない」とあります。

 これらと比較すると、安倍首相が米国の装備品の導入について公然と「結果として米国の経済や雇用にも貢献する」と口にしたのには驚かされました。ある意味、正直だし、大胆だし、あからさまです。と同時に、やっぱりそうか、45年前と日米の関係は変わっていないな、とも感じました。

── 安倍首相の発言は、2月10日にワシントンで行われた日米首脳会談を受けてのことだと思います。この会談で、安倍首相はトランプ大統領と戦闘機F35について議論しています。

奥山 2月18日にトランプ大統領はフロリダ州メルボルンの空港に有権者を集めてその前で演説し、その中で、安倍首相との会話を紹介しています。

 トランプ大統領によれば、安倍首相は最初に「ありがとう」と言ったそうです。それで、トランプ大統領は「何の話?」と聞き返した。そうすると、安倍首相は「F35戦闘機で何百万ドルも節約してくれた」と答えた──。

 トランプ氏が以前から自慢していたことの一つなのですが、トランプ氏はF35の開発・製造元のロッキード・マーティン社の人を呼び出して「安くしろ」と交渉し、日本が購入する分も含め値引きに成功したそうです。値引きされたといっても原価を下回ることはあり得ませんし、生産機数が増えていけば初期コストを回収して1機あたりの値段が逓減していくのは当然のことですので、本当にトランプ氏の交渉の結果として日本が節約できたといえるのかどうか疑問がないわけではありませんが、とにもかくにも、日米首脳会談でロッキードという特定のメーカーの特定の機種の話題が出たという事実があったということになります。……