植草一秀  「国富」の略奪

政治の私物化に対抗できるか

 森友学園問題の根本にあるのは、政治の私物化という問題です。日本では郵政民営化以来、政治の私物化が顕著になってきたと思います。

 これは日本に限らず、世界的な問題です。それはアメリカでトランプ一族が政治を牛耳っていることからも明らかです。この流れにいかにして対抗していくか、それが問われています。

 ここでは弊誌5月号に掲載した、政治経済学者の植草一秀氏の論文を紹介したいと思います。全文は5月号をご覧ください。

「国富」喪失

 『「国富」喪失』と題する新著を上梓した(詩想社新書)。副題は「グローバル資本による日本収奪と、それに手を貸す人々」。日本国民の富が収奪されている。その根本原因は政治にある。主権者国民の利益極大化を目指すのが本来の政治のあり方だが、現在の安倍政治は違う。グローバルな巨大資本の利益極大化だけを目指している。

 それだけではない。政治の「私物化」が目に余る。そして、さらに深刻な問題は、その事実が明るみに出ても、その現実を変える力が国全体に不足していることだ。問われるべきは第一に野党の責任だが、同時に見つめなければならないのは、国民自身の力と行動である。

 お隣の韓国では、朴槿恵大統領が私人である友人の崔順実氏による国政関与問題が明るみに出ると、国民が大規模な示威行動を展開し、朴大統領の退陣と弾劾が実現した。民衆がすべての事実を把握しているのかどうか。民衆の激情による政治改変が望ましいのかどうか。議論の余地はある。

 しかし、韓国の民衆が極めて強い政治的関心を有し、政治行動に極めて積極的である事実は賞賛されるべきであろう。

 日本では森友学園に対する国有地の激安払い下げが表面化して、安倍首相が国会答弁で、「自分や妻が学校認可や土地取得問題に関与していたら、総理大臣も国会議員も辞める」と明言した。

 そして、自民党が求めた森友学園の籠池泰典理事長による国会証人喚問で、安倍首相夫人である安倍昭恵氏が森友学園の小学校用地の問題に深く関与したことを示唆する重要事実が明らかにされた。

 安倍首相の国会答弁を踏まえれば安倍首相辞任に直結するような事態が生じたわけで、安倍首相が疑惑を晴らすには、安倍昭恵氏の説明が必要不可欠な状況に至った。安倍首相夫妻にやましい部分がないなら、安倍昭恵氏がウソをつくことのできない証人喚問に応じて、すべての疑問に答えれば済むはずである。

 安倍首相にとっても夫人の証人喚問実施が疑いを明確に晴らす恰好の場になるはずだ。ところが、安倍首相の側が、安倍昭恵氏の説明の場を一切設けない行動に突き進んでいる。

安倍昭恵氏の説明責任

 問題の本質は安倍首相が国会で首相辞任に言及したことにあるわけではない。国有財産が不正な低価格で一事業者に払い下げられた疑いがあり、このことに安倍首相夫妻が関与した疑いが濃厚に存在する点にある。安倍首相を擁護したい勢力の側からは、森友問題以外に重要議案があるとの声が上がるが、ものごとの優先順位、重要性を適正に認識するべきだ。

 国有財産が、首相や首相夫人と極めて近い人物に対して不当に低い価格で払い下げられたとすれば、まさに典型的な政治腐敗そのものである。政治の根幹に関わる文字通り重大な問題なのである。

 2月17日の衆議院予算委員会で民進党の福島伸享議員がこの問題について安倍首相に質した際、安倍首相自身が、「関与していれば首相も議員も辞めるとはっきりと申し上げる」と明言した事案なのである。安倍首相自身が問題の重要性、重大性を、もっとも早い段階で明確に認識していたとも言えるのだ。……