山田正彦 米国はコメ関税をゼロにする

米国労組が日本のTPP参加に反対!

── アメリカ国内でも、TPPが多国籍企業の利益にしかならないという認識が高まりつつある。

山田 二〇一二年一月、私はアメリカの全国労働総同盟・産業別労働組合会議(AFL─CIO)を訪問し、テア・リー会長補佐らの幹部と意見交換した。

 そのとき、リー会長補佐はオバマ大統領のTPPについての姿勢に異議を唱えていた。彼らは、メキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)によってアメリカの雇用が悪化するという苦い経験をしていたからだ。

 協定の翌年、アメリカからメキシコへ八百万トンの遺伝子組み換えのトウモロコシが入った結果、メキシコの農家二百万戸が失業してしまった。この失業した二百万戸の農家が家族を連れてアメリカ南西部に流入、百万人のアメリカ人の雇用が奪われたという。

 さらに、アメリカ企業はアメリカ国内の工場を閉鎖し、賃金の安いメキシコに出て行こうとした。労組が経営陣と交渉すると「賃金を半分にすればアメリカに残ってもいい」と。やむなく労組は応じたが、結局はメキシコに出て行ってしまい、アメリカ人の賃金もどんどん下がっていった。彼らは、TPPによって、今度はベトナム、マレーシアなどの安い労働力がアメリカに流入し、さらにアメリカの雇用が悪化し、格差社会が進むことを警戒している。つまり、アメリカでは、自由貿易の拡大は大企業、多国籍企業の利益にしかならないという認識が広がっているのだ。

 AFL─CIOは、安倍・オバマのTPP交渉参加への共同声明を受けて、日本のTPP交渉参加に反対する声明を発表した。これは大変重い事実だ。

── TPPは多国籍企業の意向に沿って各国の制度改変も迫るものだ。

山田 昨年十二月に開かれたアメリカ議会・貿易商委員会の公聴会でUSTR(米国通商代表部)の責任者であるマランティス次席代表は、「TPP加盟国ではすべての環境と労働を統一したルールにする」と語っている。今年になってワイゼル主席交渉官も同様の発言をしている。

 アメリカの労働制度に合わせろということになれば、とんでもない事態を招くことになる。アメリカではILO(国際労働機関)の基本条約八項目のうち、強制労働禁止と児童虐待労働禁止の二項目しか認めておらず、スト権も団結権も批准されていないのだ。

 TPPによって、労働者を自由に解雇できるような労働制度にしろという要求も出てくる可能性がある。日本では、解雇権の乱用ができないような判例が積み上げられてきた。ところが、いま政府の産業競争力会議では、金銭の支払いで解雇を可能とする「金銭解決ルール」が議論されている。

── 産業競争力会議が、TPPを見越して様々な制度改革を加速させようとしている。

アメリカは韓国のコメ関税をゼロにする

山田 二〇一二年に訪米した際、マランティス次席代表に「TPPで日本に何を求めるのか」と聞いたときに、彼は「米韓FTAの内容を読んで欲しい。日本にはそれ以上のものを求める」と明言した。

 すでに米韓FTAを履行するため、韓国では自動車・保険・医薬品・税法・著作権など様々な法令が改正されようとしている。アメリカは、「学校給食への遺伝子組み換え食品禁止」を明記したソウル市の条例撤廃も要求している。また、七月にスタートする予定だった「エコカー補助金制度」は、「米国車はほとんど大型車であり、同制度は非関税障壁に当たる」とクレームをつけられたために頓挫した。

 韓国はコメについて例外が認められたと報道されていたが、二〇一四年からコメについても関税が引き下げられ、七年間でゼロになるということが明らかになった。

 日本はTPPによって、このような結果を招いた米韓FTA以上のものを求められるのだ。アメリカ大企業の都合によって、国民の生命、健康、財産を守るための規制が、「非関税障壁」の名のもとに撤廃されることになるのだ。

以下全文は本誌5月号をご覧ください。