菅野完 森友学園事件を総括する(中)

森友事件とはなんだったのか

 森友学園の国有地売却問題をめぐり、会計検査院が撤去費は2億~4億円程度で済み、値引き額は最大約6億円過大だったと試算していることがわかりました(10月26日共同通信)。安倍政権が選挙に大勝したからといって、この問題がなくなるわけではありません。今後もこの問題を徹底的に追及する必要があります。

 弊誌11月号では、森友学園事件をずっと取材してきた著述家の菅野完氏に、森友事件の本質について解説してもらいました。全文は11月号をご覧ください。

推定無罪原則を無視する安倍総理

 いよいよ衆議院選挙が公示された。テレビでは連日、各党党首クラスのインタビューや討論が流されている。安倍総理もその例外ではない。全国各地を遊説で飛び回る忙しい日程を縫って、報道各社の求めに応じて各種の番組に顔を晒しコメントを出し続けている。今回の解散総選挙では、安倍総理に抗議の声を上げる市民をさけるために、総理遊説日程は厳秘扱いとされ、「総理がどの選挙区にいつ入るか」が見えにくい。その代替としての意味もあるのだろう。最近の安倍総理はテレビに出演するたび、実に饒舌に喋る。

 10月11日に放映されたテレビ朝日「報道ステーション」での党首討論もその一環だったのか、総理は実によく喋りつづけた。しかし、「敵地・報ステ」という意識があるためか、居並ぶ野党党首への反感があるためか、総理の姿はいささか興奮気味に見えた。その興奮が最高潮に達したのは、番組コメンテーターから森友学園の問題について問われた時だった。この質問に安倍総理は、あろうことか「籠池氏は詐欺で逮捕、起訴されました。これから司法の場に移っていくんだろうと思います。こういう詐欺を働く人物の作った学校でですね、妻が名誉校長を引き受けたことはやっぱり問題があった。こういう人だから騙されてしまったんだろう」と述べたのだ。

 近代的法治主義の原点であるはずの推定無罪原則も、総理が究極的には検察の指揮権を有していることも完全に無視し「籠池は詐欺で逮捕起訴された。そういう人物だから自分の妻は騙された」と興奮気味に言ってのける安倍総理は、もはや常軌を逸していると言わざるをえない。

 だが一方で、この史上まれにみる総理の失言は、極めて的確かつ手短に「森友事件とはなんだったのか?」を浮き彫りにしているとも言える。総理が言うように、森友事件とは、「籠池泰典氏と安倍夫妻の関わり」があってこそ発生した事件なのだ。そして、これまた総理が身をもって示すように、籠池氏が頼った安倍晋三なる政治家が、近代的な法治主義の概念や民主主義社会の原則的な手続き論をおろそかにする、極めて稚拙な政治家であればこそ発生した事件なのだ。

塚本幼稚園に群がる保守系政治家たち

 籠池氏と安倍夫妻が初めて関わりを持ったのは、2010年頃のこと。その頃すでに籠池氏率いる森友学園が経営する塚本幼稚園は「軍歌を歌う幼稚園」「愛国幼稚園」としてその名を保守運動界隈に轟かせていた。高橋史朗、渡部昇一、中山成彬、青山繁晴などなどの錚々たる面々がこぞって塚本幼稚園で講演を実施したのはなにも籠池氏が招聘運動を展開したからではない。

 「テレビに映る理事長(籠池氏)のあのキャラクターをみてたら、まるで理事長がしつこく先生方をお誘いしたようにみえるかもわからんけど、そんなこと全然ないんやで? むしろ、講演させてくれ、視察させてくれ、保護者に会わせてくれと、向こうの方から言うてきた事例の方がおおいんちゃうかな。こっちはその依頼を整理するのでてんてこ舞いやった時期さえある」

 当時、塚本幼稚園の事務方を務めていた元職員はインタビューに応じてこう答えてくれた。……