内田樹 エリートはみんな対米従属で出世した

自民党が大勝した理由

 総選挙は自民党の大勝で終わりました。この一因は、急な解散や希望の党の出現により、野党側がうまく共闘できなかったことにあると思います。しかし、それと同時に、安倍政権を支持する国民が確実に存在することも忘れてはなりません。なぜ彼らは安倍政権やその政策を支持するのか、その理由を解明する必要があります。

 ここでは、弊誌11月号に掲載した、内田樹氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は11月号をご覧ください。

安倍晋三の持つ対米ルサンチマン

―― 日本では対米従属的な政権が長期政権を築く傾向にあります。安倍政権も対米従属的な政策を行ってきましたが、この政権が5年も続いたということは、国民も対米従属を支持しているということなのでしょうか。

内田 安倍政治の基本は対米従属です。彼は長期政権を維持するために、アメリカの国際戦略を全て支持しています。これは彼が小泉純一郎から引き継いだ手法です。しかし、単なるアメリカの「ポチ」というだけでは、ホワイトハウスに信任されても、国民からの支持は得られない。安倍政権が5年も続いたのは、日本人の無意識的に抑圧された対米自立の問題と関係しています。

 安倍は安保法制や集団的自衛権の行使容認などにより、とにかく日本を「戦争ができる国」にしようとしてきました。彼は、日本が国際社会で侮られているのは日本が憲法で縛られているせいで「戦争カード」を切ることができないからだという考え方を日本国民に刷り込みました。改憲して国防軍と交戦権を手に入れることができれば、中韓との外交関係で一気に譲歩を引き出せる、そういう「ストーリー」を多くの日本人が信じ始めています。

 でも、日本が戦争ができない国になったのは、アメリカに戦争で負けたからです。敗戦の結果、日本はサンフランシスコ講和条約や東京裁判、日米安保条約、日米地位協定などにより、アメリカの属国の地位に貶められた。自前の軍隊を、自前の国防戦略に基づいて運用する権限を奪われた。

 アメリカに負けたせいで「戦争ができる権利」を失ったわけですから、論理的に考えれば、「戦争ができる権利」を回復するには、もう一度アメリカと戦争して勝つしかありません。論理的にはそれしかないのです。集団的自衛権の行使容認によって「アメリカの許諾があれば、アメリカと一緒に戦争する」ことはできるようになりました。でも、いくら自衛隊を海外派兵してみても、自分たちから「戦争ができる権利」を奪っていった宗主国には永遠に逆らうことができない。

 今の日本の指導層は政治家や官僚、学者、メディア、ビジネスマンも含めて、みな対米従属技術を洗練させることによって出世してきた人たちです。「戦争ができる国」にはなりたいけれど、「アメリカも含めてどんな国とも好きな時に戦争できる国になりたい」などと口にすれば、その瞬間に、政治家としても官僚としても知識人としても生きていけなくなります。ですから「戦争ができる国になりたい」と言うことまでは自分に許すけれど、「アメリカを含めてすべての国と」という点については口をつぐんでいる。この抑圧のせいで、日本のエリートたちの言うことは支離滅裂になる。

 特に日米交渉のフロントラインにいる人たちは、日米合同委員会や年次改革要望書などをめぐってアメリカの小役人たちからひっきりなしに怒鳴られている。彼らは属国のエリートというものがいかにひ弱な存在であるかということを身をもって知っています。ですから、出世のために日々アメリカに従属していますけれど、心中では対米憎悪が蓄積している。それはエリートだけでなく、多くの日本人が共有している屈託です。

 日本では領土問題や慰安婦問題については過剰に暴力的でヒステリックな言葉が口にされますけれど、あれは本来であればアメリカに向けられるべき怨恨がアメリカ以外の対象に取り憑いたものです。フロイトが指摘しているように、抑圧されたものは症状として回帰するのです。

 そして、ここに安倍晋三が支持される隠された理由があります。……