トーマス・カトウ 在日米軍は撤退する!

激化する米中対立

 アメリカのトランプ政権は中国との対決姿勢を強めています。しかし、これはトランプ政権だから生じたことではなく、アメリカの総意と見るべきです。トランプ政権以後の政権も中国に対して同じような対応をとるでしょう。日本は米中対立の中でどのように振る舞うか、真剣に検討しなければなりません。

 ここでは弊誌12月号に掲載した、日系アメリカ人で、1980年代から、国際コンサルタントとして米政府機関、議会、シンクタンクとの人脈を築いてきたトーマス・カトウ氏のインタビューを紹介します。全文は12月号をご覧ください。

対中新冷戦の始まりを告げたペンス演説

── ペンス副大統領が10月に行った中国政策についての演説は、かつてチャーチルがソ連を批判した「鉄のカーテン」演説に匹敵するとされ、対中新冷戦の始まりを告げたとも見られています。

カトウ ペンス演説は、中国政策に関する包括的な内容を含んでいるだけではなく、非常に強い調子で中国を批判しています。

 経済発展によって中国が国際社会の責任ある一員となっていくという楽観論が裏切られたことに対する、強い失望感がにじみ出ています。

 ペンス副大統領は「21世紀に入ると、分別のある楽観主義をもって中国に米国経済への自由なアクセスを与えることに合意し、世界貿易機関(WTO)に加盟させました。…過去17年間、中国のGDPは9倍に成長し、世界第2位の経済大国となりました。…中国共産党は、関税、割当、通貨操作、強制的な技術移転、知的財産の窃盗、外国人投資家にまるでキャンディーのように手渡される産業界の補助金など自由で公正な貿易とは相容れない政策を大量に使ってきました」と述べています。

 ペンス副大統領が述べた通り、「中国は2001年にWTOに加盟し、それを悪用して発展してきた」という認識が、アメリカでは高まっています。かつては、中国のWTO加盟が国際社会にプラスになるという楽観論がありました。例えば、オバマ政権時代の2014年に駐中国大使に就いたマックス・ボーカス氏は、モンタナ州選出の民主党上院議員ですが、彼は中国のWTO加盟を推進していました。

 だからこそ、トランプ政権は、WTOがアメリカを不公平に扱っていると批判するのみならず、WTOからの脱退さえほのめかしているのです。そして、トランプ政権は中国に対して制裁関税をかけるだけではなく、市場原理に反した中国の行動を封じ込めるため、各国が中国とFTAを結ぶことを禁じようとしています。

── ペンス演説は、中国の軍事的脅威についても指摘しています。

カトウ 中国とロシアをアメリカにとっての長期的な脅威と位置付けることは、トランプ政権の一貫した方針です。2017年12月に発表された国家安全保障戦略文書でも、中国とロシアはアメリカの安全保障と繁栄をないがしろにするために、アメリカのパワー、影響力、利益に挑戦していると指摘しています。

 この文書では、中国について33回言及しています。この回数は北朝鮮の16回、ロシアの25回を上回るものです。いかに対中戦略を重視しているかが示されています。

── ペンス副大統領は、「中国のキリスト教徒、仏教徒、イスラム教徒に対する新たな迫害の波が押し寄せています」と述べるなど、人権問題についてもかなりの時間を割いて言及しています。パックス・アメリカーナからの離脱を掲げ、人権よりアメリカの国益を最優先するトランプ政権の路線とは若干ニュアンスが異なるようにも感じます。

カトウ ペンス副大統領は、地元大学を終えた後、神学大学院に進むことを熟慮したほど熱心なキリスト教徒です。トランプ政権の国益重視の外交は、キリスト教保守派のみならず民主党系の人権派には物足りなさを感じさせるところがあります。それを補う形で、ペンス大統領は発言していると見ることができるでしょう。……