植草一秀 民主主義を冒涜するシロアリ増税

野田シロアリ増税に国民の大半が反対

 野田佳彦氏が「シロアリ退治なき消費増税」を強硬に実施しようとしている。財務省の言論統制活動である「TPR」(タックス・ピー・アール)によって、増税推進の報道しか展開しない大手メディアだが、大手メディア実施の世論調査でさえ、野田氏提案を支持する市民は圧倒的少数になっている。

 朝日新聞社が6月4、5日に実施した全国緊急電話世論調査では、消費増税法案を「今国会で成立させるべきだ」という人が17%、「成立にこだわるべきではない」という人が72%という結果が示された。

 野田内閣が提示する消費増税案に対しての反対が過半数を超えているが、とりわけ、拙速な法案成立に向けての動きを批判する姿勢が強い。その背景に、野田内閣の問題処理プロセスが民主主義の根本原理に反しているという事情がある。これが、野田内閣が推進している消費増税提案に対する強い風圧の第一の要因である。

 野田内閣が提示する消費増税提案には、さらに二つの重大な問題がある。ひとつは、「社会保障・税一体改革」の名の下に検討を行うとの建前と裏腹に、実際の論議の対象が「単なる巨大な消費増税」であるということ。国民は、少子高齢社会に突き進む日本の現状を踏まえれば、社会保障制度拡充と一体の消費増税なら理解できると考えている。社会保障制度強化が論議されずに単に消費増税が実施されるというのでは、話が違うと国民が感じている。

 もうひとつは、世界経済が極めて不安定な状況下に置かれるなかで、消費税率を一気に5%も引き上げる巨大増税が、経済を破壊してしまうとの懸念を払拭できないことだ。1997年度に橋本政権が消費税率を2%引き上げたとき、日本経済はこの増税をきっかけに奈落の底に落ち込み、金融恐慌のリスクさえ表面化した。

 経済活動への影響を考察し、経済が破壊されないための手立てを欠いた、単なる巨大増税が日本経済を破壊してしまうことに対する警戒感は極めて強い。

政治の要諦は「ことばに対する責任」

 ①民主主義の適正なプロセスに違反する増税提案であること、②「社会保障・税一体改革」の大義名分とは裏腹の「単なる巨大増税」である実態、③経済に対する強い下方圧力に対する施策を欠いた無謀に見える経済破壊政策、というのが、野田氏が提案する消費増税案に対する強い反対意見の根拠である。この点を踏まえるなら、この提案はいったん白紙に戻すことが求められる。6月21日を会期末とする通常国会内に法律を成立させることは極めて困難である。

 6月15日までに民自公三党での修正協議で合意を成立させ、その後に会期を延長して法律を成立させるというのが、野田氏の描くシナリオであると見られる。しかし、与野党修正協議がまとまらなければ、国会をいったん閉会して、夏または秋に召集する臨時国会への継続協議として、問題を先送りするしかなくなる。本誌が刊行されるころには、いずれの現実が出現するのかが判明していると思われるが、情勢は微妙である。

 筆者は中曽根康弘氏が首相を務めていた時期中の1985~87年にかけて大蔵省財政金融研究所に勤務した。研究所は85年半ばに、中曽根氏が提案した「売上税」構想を実現するために発足された言論統制活動である「TPR」の事務局になった。テレビ、新聞、雑誌、単行本など、あらゆる媒体の言論活動が検閲の対象になった。マスメディア幹部に対する高額接待による協力強制などもTPRの活動に含まれた。

 TPRはいまも引き継がれ、主税局企画官が歴代事務局長を務めている。テレビ、新聞の大半が消費増税推進の情報発信にいそしんでいるが、その背景に、財務省による言論統制圧力があることを、国民は認識しておく必要がある。

 大蔵省は中曽根政権の売上税導入を全面推進したが、中曽根首相は最終的に売上税導入を断念した。その最大の理由になったのは、中曽根氏の国会での発言だった。中曽根政権は1986年の衆参ダブル選挙に大勝し、増税実現の絶好の環境を得た。それにもかかわらず、中曽根政権が売上税導入を断念した主因は、中曽根氏が総選挙前の国会答弁で「いわゆる投網をかけるような税は導入しない」と明言したことだった。

 民主主義においては、政治家の主権者国民に対する言葉が、絶対的な重みを持つ。野田氏は変節して居直るという最悪の行動を示しているが、その考えが甘かったことを必ず思い知らされるだろう。……

以下全文は本誌7月号をご覧ください。