植草一秀 日本の対米隷属を固定化する安倍政権

(前略)

対米全面降伏のTPP事前協議

 安倍政権が前のめりになっているTPPへの日本参加問題で、対米隷属姿勢が一段と鮮明になっている。日米両国政府は、日本のTPP交渉参加のための事前協議を行い、その結果を「駐米日本大使と米通商代表代行の往復書簡」として公開し、それぞれが国内向けへの説明資料を発表した。

 この事前協議結果は、安倍政権の外交交渉能力の欠落を鮮明に示している。事前協議の段階でこのことが明らかになった以上、日本はTPPに参加するべきでない。国益を失うだけである。TPPの実態は、「米国の米国による米国のための国際間取り決め」である。日本が失うものは無限大、得るものはほとんどない。

 安倍晋三自民党は、昨年12月の総選挙に際して、TPPについて、「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。日本を耕す自民党‼」のポスターを貼り巡らせた。同時に6項目の公約を提示した。その内容を分かり易く表示すると、①コメ、麦、乳製品、牛肉、砂糖原料の五品目の聖域化、②自動車等の数値目標排除、③国民皆保険制度堅持、④食の安全・安心確保、⑤ISDS条項の排除、⑥政府調達・金融での日本の特性維持、になる。

 ところが、事前協議では、①米国の自動車輸入関税の引下げを最大限先延ばしすること、②日本が米国車の輸入認証方法を改めて輸入台数を2倍にすること、③日本政府がかんぽ生命などの新規事業を許可しないこと、などが決められてしまった。日本が米国に全面譲歩したことが明白だ。

 しかも、この重大事項は日本政府発表資料には記載されていない。他方、米国発表資料には、これらが「日本政府より一方的に通告されたもの」と表記された。日本の全面譲歩は「協議」を通じて決まったものではなく、日本側が勝手に決めたこととされているのだ。「日本政府が交渉で譲歩した」との批判をかわすために「日本政府が勝手に決めた」こととして、このような意味不明の経緯が表記されたのだとすれば、姑息以外のなにものでもない。

 他方で、日本が主張する農産品の聖域化については、何も具体的に決定されず、米国発表資料には「センシティビティ」の表現さえ明記されなかった。日本はこれからの交渉の交渉力を高めるための「カード」を有効に使うことなく、すべてをどぶに捨てた。

株高に浮かれている場合ではない

 昨年11月以降の円安・株高が持続して、メディアはアベノミクス礼賛報道だけを展開している。5月9日には円ドルレートが1ドル100円を突破して、円安傾向が加速する気配を強めている。

 過去5年間、日本の株価変動は為替連動の傾向を強め、とりわけ2011年以降は、円ドルレート連動の傾向を強めている。円安進行に連動する株価上昇が広がり、景気心理の改善が広がっている。

 株価上昇、景気改善は悪いことではないが、これがもたらす重大な副作用をよく考えておかなければならない。それは、株価が上がるだけで政権支持率が上昇し、選挙結果を大きく左右することだ。

 7月実施が予想される参院選の争点は、本来、原発、辺野古移設、TPP、消費税増税、憲法改正などの超重要問題とされるべきである。ところが、安倍政権はこれらの重要問題を争点とせず、円安・株高のフォローの風に乗って、安倍政権万歳のムードで選挙を乗り切る構えを示し、権力迎合のマスメディアが、これに全面協力している。……

以下全文は本誌6月号をご覧ください。