伊藤詩織 国家権力の「ブラックボックス」

性暴力は他人事ではない

 ジャーナリストの伊藤詩織氏が訴えているレイプ被害への捜査や、検察審査会のあり方を検証する国会議員による「超党派の会」が発足しました。呼びかけ人の森ゆうこ参院議員は「逮捕状が発付されたにもかかわらず、直前で取りやめになった。国会が厳しく検証すべきではないかという意見が寄せられている」と指摘しています(11月21日朝日新聞)。

 森議員の言うように、これは国会で検証すべき問題です。性暴力は決して他人事ではありません。被害者が泣き寝入りしなければならないような社会システムや風潮は、何としても変えていかなければなりません。

 ここでは、弊誌12月号に掲載した、伊藤詩織氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は12月号をご覧ください。

声なき声を伝えるジャーナリズムがなかった

―― 伊藤さんは2015年4月に当時TBSワシントン支局長だった山口敬之氏から準強姦被害を受けたと訴えています。今年5月の記者会見や手記『Black Box』(文藝春秋)では、一連の経緯を明らかにした上で、日本社会の在り方に問題を提起しました。

伊藤 本当にお話したいのは、私に起きたことではなく、その後に起きたことがさらにショックだったということです。性犯罪の被害に遭った女性には、たくさんの「壁」があります。たとえば日本では被害に遭った後、婦人科に行っても証拠となるDNAの採取など適切な処置が受けられません。警察に行っても、「よくある話だから」と言われて中々捜査してもらえません。現在の法律には被害者が脅迫や暴行があったことを証明しなければならないというハードルがあり、それゆえ検察は性犯罪に対して「どうせ起訴できないのだから」という消極的な姿勢で、それは捜査員の姿勢にも影響しています。

 2年前に私に起きたことは密室の出来事なので、警察や検察の方々から何度も「ブラックボックス」という言葉を聞かされました。その後、警察や検察そのものにも「ブラックボックス」があることに気がつかされました。

 当時の中村格・警視庁刑事部長の指示によって被疑者の逮捕が当日、現場で中止されたこと、警視庁捜査第一課の捜査報告書に重要な証言が抜け落ちていたらしいこと、それをもとに検察が不起訴処分としたのではないかということ、検察審査会が「不起訴相当」を出したこと……。どうしてそうなったのかという疑問には、何の説明もありません。「ブラックボックス」から出てきた結果を突きつけられるだけです。

 性犯罪は誰にでも起りえるものです。しかし被害に遭った人は社会から守られず、傷ついたままになりやすい。同じことを繰り返さないためには、社会の在り方を変えないといけない――これが私の伝えたいことです。

 でも、メディアはこのような「壁」や「ブラックボックス」をほとんど報じませんでした。私はジャーナリズムとは、小さな声を掬いあげるもの、声なき声を届けるものだと思っていました。しかし実際に自分が小さな声を上げようとしても、その声を汲み上げてくれるメディアはありませんでした。だから自分の顔と名前を出して、自分の言葉で伝えるしかなかったのです。……