植草一秀 食い尽くされる日本

既得権益の逆襲が生んだ安倍晋三政権

 7月21日の参院選で自公が圧勝し、衆参ねじれは解消した。同時に特筆すべきことは、自民党補完勢力と判断できる「みんな」と「維新」を合わせると、自公+みんな維新が衆参両院で圧倒的多数議席を確保したことである。この4党が衆院では定数480の83%にあたる397議席を、参院では定数242の67%にあたる163議席を占有した。いずれも憲法改正発議要件となる3分の2を上回る。

 さらに言えば、惨敗したとはいえ、衆院で57、参院で51議席を有する民主党も、そのかなりの部分が自公政権補完勢力である。つまり、日本の国会の大部分が自公およびその補完勢力で占拠されてしまったのである。自公民みん維新5勢力による国会占拠は、新しい大政翼賛政治の始動を意味すると言っても過言ではないだろう。

 自公民みん維新の5勢力をひとつに束ねるのは、この5勢力が日本の既得権益を代表する政治勢力であるからだ。日本の既得権益を筆者は、米・官・業・政・電の五者=ペンタゴンで表示している。その中核に位置するのが米国であり、日本は米国支配の政治構造の下に置かれている。

 この政治勢力の最大の特徴は、日米同盟基軸、米国の産軍複合体、米国の巨大金融資本の利害を基軸に経済政策を運営する点にある。この路線を鮮明に提示したのが2001年発足の小泉政権である。小泉政権が主導した新自由主義経済政策がもたらしたひずみは、リーマンショック後のサブプライム金融危機不況の際に、私たちの目の前に鮮烈な姿をさらけ出した。2008年末の年越し派遣村はその象徴的な存在だった。

 日本の主権者は小泉政権が唱えた「今の痛みに耐えより良い明日を目指す」という偽りの呪文の呪縛から解き放たれ、この覚醒が2009年9月の政権交代実現の原動力になった。ところが、政治の主導権を奪われた既得権益の逆襲はすさまじかった。まさに目的のためには手段を選ばぬ暴虐の限りを尽くし、その結果として、2012年12月に日本政治を再転覆させてしまった。さらに、本年7月の参院選を通じて既得権益勢力はかつてない強固な政治基盤を固めてしまった。

 安倍政権が推進する方向は、小泉政権の延長線上に位置する。対米隷従、官僚主導、弱肉強食基軸の基本路線が、より強固に固められつつあり、日本社会の構造が完全に変質する状況が生まれている。

「分かち合う社会」から「奪い合う社会」へ

 参院選の本来の争点は、原発、憲法、TPP、消費税、沖縄の五大問題であった。いずれの問題も、日本の命運を左右する重大性を帯びている。主権者である国民が選挙に際して、この重大問題についての最終判断を示す。それが国民主権の国家における国政選挙のあるべき姿だった。この五つの問題の賛否が既得権益と主権者国民との間ではっきりと二分され、対峙しているのだ。

 米国の産軍複合体と癒着し、官僚が主導し、資本の論理を追求する既得権益は、原発推進、憲法改定推進、TPP参加、消費税大増税、辺野古基地建設推進の姿勢を鮮明に示す。対する主権者国民は、五つの問題に正反対の主張を示している。

 このなかの経済問題である、原発、TPP、消費税の争点に対する主張対立は、「原子力ムラ」の利益、資本の論理の貫徹、庶民への負担押し付けの是非をめぐるものだ。長期的な国民の生命・健康を犠牲にしてでも目先の原子力ムラ利権を追求するのか。日本国民の利益、生命、健康を犠牲にしてでも巨大資本の利益を追求するのか、法人税負担を切り下げ、庶民課税を一段と強化するのか。その対立は非常に明確である。

 突き詰めて考えると、結局、日本社会の基本構造を、「格差社会」にするのか、それとも「共生社会」にするのかという選択が問われているのである。

以下全文は本誌9月号をご覧ください。