植草一秀 アベノミクスの落とし穴

明白だった民主党の大惨敗

 12月26日に第2次安倍政権が発足した。2007年に無責任に総理の職を放り出した安倍晋三氏がわずか5年の時間を経て首相職に返り咲いた。その大きな背景にメディアの全面的な支援があった。一部のテレビ番組は安倍晋三親衛隊の様相を示して安倍支持の放送を繰り返したし、安倍氏が提示する経済政策に対するマスメディアの批判的論説は皆無に近い。12月16日の衆院選は事前のメディア報道通り、自民圧勝の結果に終わった。この結果はメディアの情報誘導によってもたらされた面が強い。

 衆院定数480のうち、自民党が294議席、公明党が31議席を獲得した。自民党は公明党との連立政権を樹立したが自公両党で衆院3分の2を上回る325議席を確保した。法案が参院で否決されても衆院の3分の2以上で可決すれば成立する。自公両党は衆議院絶対多数を確保した。

 今回の選挙結果は次の図式で誘導されたと言える。第一に、政権与党民主党への国民の支持を完全に喪失させたこと。野田佳彦氏は昨年11月14日の党首討論で鼻息も荒く解散の意思を表明した。主権者国民に「シロアリ退治なき消費税増税はおかしい」と声高に演説した動画映像が流布されるなかで、その「シロアリ退治なき消費税増税」を強硬に押し通したのだから、これひとつで主権者国民から総スカンを喰うことは火を見るよりも明らかだった。

 したがって、野田佳彦氏は既得権益勢力から与えられた使命を果たすために、民主党大惨敗を承知で解散決定したと考えるのが普通の読み筋である。しかし、野田氏の言動をつぶさに観察すると、ひょっとすると本気で民主党が善戦する可能性を想定していたのかも知れない。そうだとすると、かなり救いようのない政治音痴ということになる。

 選挙結果を誘導した勢力は、第一に民主党大惨敗の素地を固めた。これで風は自民党にフォローになる。しかし、2009年総選挙で政権交代が生じた背景には、自民党政治に対する国民の不満の蓄積があった。とりわけ01年から06年の小泉竹中政治が推進した弱肉強食奨励の経済政策に対する否定的風潮が強まった。民主党が失態を演じたからといって、それだけで自民党の政権復帰が決まるわけでもない。

反・民自公票分断と投票率の引下げ

 選挙結果を誘導したのはマスメディアを含む日本の「既得権益」勢力であると考えられるが、この既得権益勢力がもっとも恐れた存在は小沢新党であった。2009年の政権交代実現の中心に小沢一郎氏がいた。既得権益は民主党の小沢─鳩山ラインを徹底攻撃して2010年に鳩山政権を倒した。これ以後に樹立された菅直人政権、野田佳彦政権は同じ民主党政権ではあるが、実体的には「既得権益の政権」に回帰したものだった。だからこそ野田政権は国民との契約を根本から踏みにじる消費税大増税決定に突き進んだ。

 09年の政権交代を実現した主力部隊の多くは民主党を離れて「生活党」を結成した。既得権益が恐れたのは、反民主、反自民の投票が「生活党」に集中して流れることだった。そこで、既得権益は先回りして反民主・反自民票を分断する工作を行った。選挙結果誘導の二つ目の方策が、橋下維新に対する異常な宣伝活動であった。NHK政治ニュースにおける橋下維新、石原新党関係報道の比率は突出して高かった。放送法は「政治的公平」を定めているが、NHKを始めとするマスメディアは明かに放送法違反の橋下維新大宣伝活動を展開し続けたのである。

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