長妻昭 「格差の壁」を打ち破れ

どこに生まれるかで教育格差がつく

―― 社会保障に詳しい長妻さんに格差の問題を伺いたい。まず日本の現状をどう認識していますか。

長妻 日本は格差が限界に近づき、子どもや若者の未来が潰されている状況だと考えています。まず「教育格差」です。現在、日本は教育費の自己負担率が先進国で最も高い国になっています。年収400万円以下世帯の4年制大学進学率は3割で、県民所得と大学進学率も比例しています。日本はどの家に生まれるか、どの場所に生れるかで教育に差がつく社会になっているのです。

 私の選挙区の一つである渋谷区では、全小学生のうち3人に1人が私立に通っています。一方、公立中学校の生徒のうち3人に1人は給食費など就学援助をうけています。就学援助は生活保護世帯並みの収入の家庭への支援のことです。同じ渋谷区でも、これだけ格差が広がっているのです。

 次に「雇用格差」です。現在、非正規雇用が雇用全体に占める割合は4割です。非正規だと賃金や技能が上がらないので、「稼ぐ力」が衰退します。現に日本の労働生産性は先進国で21位まで落ちています。ドイツに比べて3分の2の労働生産性です。日本人は1時間当たり40ドル稼ぎますが、ドイツ人は1時間当たり60ドル稼いでいます。仮に600ドル稼ごうとすると、ドイツ人は10時間で済みますが、日本人は15時間も働かないといけないということです。労働生産性の低さは長時間労働の問題に繋がっています。また非正規社員の結婚率は正社員に比べて半分です。

 高齢者の貧困も深刻です。「老後破産」「下流老人」と言われていますが、年金受給者約4000万人のうち、半分近くの人が1ヵ月10万円以下の受給額です。特に単身世帯だと、月8・3万円以下の受給額の女性は約4割、男性は約3割です。今年3月には戦後初めて生活保護世帯に占める高齢世帯の割合が過半数となりました。「老後の安心」を保障する年金がその役割を果たしておらず、今や生活保護が年金の代わりになりつつあります。

 このように格差は深刻化していますが、国民の認識には大きなズレがあります。私は全国で貧困や格差の問題を講演していますが、ある講演会では「長妻さん、私の周りで貧困に苦しむ人なんか見たことないよ。最近テレビでもやっているけど、珍しいから取り上げているんでしょ。そういう一部の例外的な人たちには生活保護があるんだから、政治家が取り組むような問題じゃないよ」と言われました。

 一方、別の講演会では「長妻さんの話は当たり前のことばかりじゃないか。私の周りは全員そうなんだから、もう皆知っているよ。貧困が問題だと言う時間があるなら、具体的な対策を議論してほしい」と言われました。

 貧困が深刻化する中で、日本は様々な「格差の壁」ができてしまい、貧困・格差に縁のない社会と貧困・格差ばかりの社会に分断されているのです。

2025年に財政危機を迎える

―― 「格差の壁」はどう解消したらいいのでしょうか。

長妻 まず社会保障を充実させる必要があります。こういうことを言うと、「財源がない」と言われます。だからといって何もしなければ、財政破綻は時間の問題です。

 今後、日本は社会保障費のピーク、すなわち財政破綻の危機を2回迎えます。1回目は団塊の世代すべてが75歳以上の後期高齢者になる2025年です。私はこれを「昭和100年問題」と呼んでいます。2回目は65歳以上の高齢者人口が最大になる2042年です。このとき日本の高齢者人口は3878万人となります。

 率直に言って、今のままではこの危機を乗り越えることはできません。財政破綻するか、社会保障制度が崩壊するか、危機が訪れます。それを避けるためには、社会保障のための財源を作る必要があります。

 国会議員の給与カットや公共事業の見直しなど、行政の無駄を徹底的に削減して支出を抑えることはもちろんです。しかし、それだけでは足りない。やはり国民にも負担増をお願いしなければなりません。その上で、所得再分配を強化する必要があります。

 現在、日本は先進国で最も税による所得再分配機能が弱い国になっています。頂くべきところから頂き、配るべきところに配るということができていないのです。一人親世帯の場合などは、再分配前より再分配後の方が逆に格差が広がってしまっている状況です。……


以下全文は本誌11月号をご覧ください。

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