本誌編集部 国際医療福祉大学医学部設置 行政は歪められたのか

国家戦略特区をめぐる新たな問題

 国家戦略特区をめぐる問題は加計学園問題だけではありません。国家戦略特区の枠組みで新設が決まった国際医療福祉大学に対しても、不透明さを指摘する声があがっています。

 ここでは弊誌7月号に掲載した、本誌編集部記事を紹介します。全文は7月号をご覧ください。

国家戦略特区の目的と地元・成田のニーズとの乖離

 今年4月、国際医療福祉大学が、成田市公津の杜の成田キャンパスに医学部を開設した。成田市が23億円で敷地を確保し、50年間無償貸与した。医学部新設に要する160億円のうち、成田市が45億円、千葉県が35億円を拠出した。

 すでに昨年4月、同大学は成田キャンパスに成田看護学部、成田保健医療学部を開設している。その際、成田市は20億円で土地を購入して無償貸与、総設備費65億円のうち30億円を助成している。成田市は国際医療福祉大学に合計130億円拠出していることになる。

 同大学の医学部は、加計学園の獣医学部と同様、国家戦略特区の枠組みで新設が決まった。通常の手続きでは、医学部の新設は不可能だった。厚生労働省医療従事者の需給に関する検討会(医師需給分科会)の中間報告において、医師の需要と供給は2024年に均衡に達する事が明らかになっているからだ。2018年には医学部定員を削減していく事が求められている。

 自由党の木戸口英司参議院議員は、「これまで医学部の新設が抑制されてきたのは、研修医の期間も含め医師の養成には8年間も掛かる一方で、教員への引き抜き等により医学部新設に際し地域の医師が不足する、地域医療の質が逆に低下するということが懸念されていることが私は本質だと思っております。その意味で、真に求められているのは、医師の地域偏在を解消し、地域医療を担う人材を育成することであります」と語っている。

 そこで、医学部新設は国家戦略特区の枠組みで検討されることになった。内閣府、文部科学省、厚生労働省は、2015年7月31日に「国家戦略特別区域における医学部新設に関する方針」を出している。そこでは、「国内外の優れた医師を集め、最高水準の医療を提供できる、世界最高水準の『国際医療拠点』をつくるという国家戦略特区の趣旨を踏まえた、国際的な医療人材の育成のための医学部新設」が目的とされた。

 条件として、一般の臨床医の養成・確保を主たる目的とする既存の医学部とは次元の異なる、際立った特徴を有する医学部とすることが定められ、「国際医療拠点としてふさわしい留学生の割合・外国人教員の割合」「一定年数以上の海外での診療経験や教育経験を有する教員の確保」などの事項を満たすことが求められた。

 ところが、2013年9月に、成田市が国際医療福祉大学と共同で国家戦略特区ワーキンググループに対して提出した「国際医療学園都市構想」では、医学部の入学定員140名のうち20名は海外からの留学生を含め国際舞台での医療の担い手となる人材として教育するが、120名は国内の医師不足の解消を図るため地域医療の担い手として教育すると記されていた。これは、「国家戦略特別区域における医学部新設に関する方針」に反するものだと考えられた。

 しかし、2015年11月27日の国家戦略特区諮問会議で、同特区での医学部新設が了承された。事業者の公募は11月12日からたったの1週間で締め切られ、国際医療福祉大学の1校のみが応募したと報じられている。

 2016年5月19日の参議院内閣委員会で、民進党の桜井充議員は次のように語っている。

 「特区に従ってやってくれば国際的な医療をやる人たちしか育てないはずの大学なんです。しかし、今の申請は、この国際的なことをやる人たちの定数は僅か20、一般の医者を120育てますといって出してきているんですよ。だから、これは三省合意が平成27年の7月31日になされていますが、これに全く違反して、結局、私申し上げておきたいのは、一般の医学部を本当はつくりたかったから、ただ単純に特区を悪用して、しかも誰かいろんな方々が圧力を掛けてこういうことをやってきているんじゃないかと思っているんですよ」……