菅野完 読売新聞は死んだ

大手メディアは猛省せよ

 安倍政権が都議選で大敗したのは、大手メディアが安倍政権批判を始めたからでしょう。その一つのきっかけになったのが、東京新聞の望月衣塑子記者が菅官房長官を厳しく追及したことだと思います。

 逆に言えば、メディアがしっかりと仕事をしていれば、安倍政権が5年も続くことはなかったということです。大手メディアはこの間の自分たちの仕事ぶりについて猛省すべきです。

 ここでは、弊誌7月号に掲載した、著述家の菅野完氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は7月号をご覧ください。

官邸記者クラブは仕事をせよ

―― テレビでも田崎史郎氏などが安倍政権擁護を続けています。

菅野 田崎氏の『梶山静六 死に顔に笑みをたたえて』は、間違いなく戦後政治家評伝の最高傑作の一つでしょう。しかし今の田崎さんにはあの名著をものしたジャーナリストとしての面影は全くありません。実に情けない。

 おそらく田崎氏はテレビ局の注文通りにコメントしているのだと思います。私も森友問題についてテレビ局から取材された時、「カメラの前でもっと籠池氏をイジってほしい」と要求されたため、取材を断ったことがあります。田崎氏は優れたサラリーマンですから、いま自分に何が求められているかを理解し、それに応じているのでしょう。

―― 準強姦疑惑のある山口敬之氏も安倍政権を擁護し続けていました。

菅野 山口氏は田崎氏のように以前から本を書いていたわけではなく、TBSを辞めた後に安倍総理のケツを舐めるような本を二冊書いただけです。記者としての実績や能力、専門性、どの角度から見てもテレビ局が起用する必然性のない人物です。しかも、『週刊新潮』の報じたところによると、山口氏はスキャンダルのもみ消しを内閣情報官の北村滋氏に頼んでいました。ここからも、彼が政権の意向通りのコメントをしてきたことは明らかです。

 それ故、山口氏を出演させるということは、いわば、不正の臭いがするルートから欠陥商品を仕入れ、お客さんに提供するようなものです。普通の会社なら即座に内部調査委員会を発足させ、再発防止策を発表しなければならない事案です。

 ところが、テレビ各局は山口氏を起用してきたことについて、何の総括もしていません。社内で「総括すべきではないか」と騒げば、出世に響くからでしょう。

―― 朝日新聞などは安倍政権を厳しく批判していますが、いま一つ追及し切れていないように見えます。

菅野 すごく陳腐な言い方になりますが、これはひとえに官邸記者クラブの問題です。菅官房長官が記者会見で前川氏の人格を貶めるような発言をしたことに対して、官邸記者クラブの記者たちは何の反論もせず、トリテキ(取材対象の発言をテキストにとること)しているだけでした。トリテキなどあと2年もすればAIにとって代わられる仕事です。これでは何のために高い給料をもらって官邸に詰めているかわかりません。ホワイトハウスの記者たちなら間違いなく反論していますよ。

 「記者会見は議論の場ではない」などという議論もありますが、それでは記者会見の場以外で菅官房長官と議論しているのか。それをしていないのであれば、単に怠慢を正当化しているにすぎません。

 また、彼らは中立性という理由で政権批判を避けることがありますが、それは間違いです。中立性ということを言うなら、政局からグルメまで多くの話題がある中で、特定の話題を取り上げた時点で、すでにいくばくかの中立性を失っているのです。

 報道における中立性は立場ではなく手続きで担保するべきものです。つまり、客観的に立証可能な根拠に基づいて書くとか、その事実が科学的検証に耐えうるものであるかを確認するとか、そういう手続きこそ中立性にとって重要なのです。……